今日の調理実習では、クッキーを作った。

自分で言うのもなんですが、私は料理が結構好きなのでそれなりに美味しくはできていると思う。

ラッピングして、皆とはしゃいだ。

誰にあげるかって、話した。

黒川さんは「テキトーに」と大人びた顔で笑った。

笹川さんは愛らしい笑みを浮かべて、誰かの顔を思い浮かべているようだった。

誰だかは分かっているけど…

(分かりたく、ないけど)

私は勿論、沢田君にあげよう。

喜んでくれるといいな……。










ドルチェ・ヴィスタ







家庭科室の鍵締めを引き受けたおかげで、皆より少し遅れてしまった。

廊下を歩きながら、もう沢田君は帰ってしまっただろうかと心配になる。

窓から遠くを眺める。

まだ太陽は沈み始めておらず、外は明るい。

ふと、日本に来てからのことを思い出した。

皆と過ごすのは楽しい。

今まで友達なんていなかったし、学校という場所で同年代の人たちと騒げるのがこんなに楽しいなんて知らなかった。

ボンゴレファミリーの皆と会うことに、やっぱり緊張していたけれど、実際に会ってみたらフレンドリーでいい人たち。

まだちょっと、他人行儀なところがある気もするけど、それも時間が経てば、本当の仲間みたいになれるって信じてる。

沢田君とも、もっと仲良くなれると、いいな。

幼い頃に芽生えた小さな想いが、こんなに膨らむとは思ってなかったけど。

再会した彼は、もっともっと優しくて、愛しい人になった。

会えて、良かった。

口が緩むのが分かった。

廊下に立って、1人笑う自分は傍から見たら変な人だろうなと思って、それがまた面白かった。

校庭に視線を落として、そこで私の笑みは止まった。

沢田君と……笹川さん。

笹川さんが、クッキーを渡している。

嬉しそうに、照れたように…本当に嬉しそうにそれを受け取る沢田君の姿。

私は、右手に持っていた自分のクッキーを見る。

同じ材料で作られた、同じ時間にできあがった、同じもの。

沢田君はきっと、受け取ってくれるだろう。

私が差し出したら、嬉しそうに「有り難う」と言って受け取ってくれるだろう。

でも、笹川さんの時のような、あんな幸せそうな顔はしないだろう。

もし、私がこのシーンを見ていなくて、沢田君の顔を見ていないままならきっと渡せた。

この後、追いかけていって渡せた。

でも、もう……

見てしまったし、分かってしまったから……もう、渡せない。

私は、もう一度右手のクッキーを見て、手を下ろした。

家に帰って食べよう。

いいんだ、私は。

あの人が幸せなら、それでいいよ。

そう自分に言い聞かせた。

嫉妬で固まった醜い自分が大嫌い。

私は教室に向かって歩みを進めた。

足取りはさっきと打って変わって重かった。

こんな嫌な女になりたくなかった。

好きな人の幸せを純粋に思える女になろうと自分に言い聞かせた。

教室。

私と沢田君と、笹川さんが一緒に過ごす教室。

私は気を取り直し、表情をつくる。

そして、何事もなかったかのようにドアを開けた。


「お、やっと帰ってきた!」


笑顔の山本君が目に入った。

傍には獄寺君とリボーンさんもいる。


「遅いよ、何やってたのさ」

「あれ…?」


ちょっと離れたところに、雲雀さんが立っていた。

他のクラスメイトは帰ったようだった。


「ど、どうしたの?」

「どうしたも何も、さんのクッキー」

「え?ああ、これ?」

「そ。貰う為に待ってたんだよ」

「当然くれるよね?貰ってあげるよ」


山本君が無邪気に笑う。

雲雀さんが、いつもの調子で言う。

私は、少し戸惑ってしまい返事ができなかった。

頭に、沢田君と笹川さんの顔が浮んだ。


「これだな」

「あっ」


リボーンさんが私の手からクッキーを取った。

封を開けて、食べだす。


さん、これ美味しいっす!」

「ありがとな」


雲雀さんは黙々とクッキーを食べる。

ただでさえ、そんなに多くなかったクッキーはあっという間になくなってしまった。

皆が食べてくれたクッキーを美味しかったと、有り難うと言ってくれる。

その言葉が嬉しくて、すごく暖かく感じた。

さっきまで、家に持って帰って1人で食べようと思っていた自分が、可笑しくなった。


「ありがとう、私も皆に食べてもらえて嬉しい」


ここに来て、よかった。

沢田君に会えてよかった。

皆に会えて、よかった。

例え、沢田君が私にあの顔を向けてくれることがなくったって、後悔することはないでしょう。











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