風が緩やかに吹いた。
フェンスにもたれて座る少女の髪を優しく撫でる。
少女は暖かい日差しに、心地よさそうなまなざしを向ける。
そこ、並森中学校の屋上には、その少女意外は誰もいない。
あまりの心地よさに、段々と少女の瞼は重くなっていった。
目を閉じ、眠りに落ちるかと思われたその瞬間、彼女の目は勢いよく開かれ、屋上への唯一の出入り口となっているドアへと視線が向けられる。
ゆっくりと、ドアが開かれる。
そこに立っているのは、金髪の男性。
「なんだ、ディーノさんか…」
「久しぶりだな、」
ディーノと呼ばれたその男性は、少女をと呼び、近付いていく。
の傍に来ると、隣に腰を下ろした。
「いつ、こっちに?」
「今日。ツナたちに挨拶しに行ったら、はまだ学校にいるって言われてさ」
「今日は日直だったから。…私が屋上にいるって何で分かったの?」
「は、時間があると大体高いところで日光浴してるからな」
そうだっけ?と首を傾げたの頭をディーノはわしゃわしゃと撫でる。
「そうそう、それにしても久しぶりだなー。会いたかったぜ」
「うわわ、ちょ、髪が」
乱れた髪を整えながら、恨めしそうにディーノを見上げる。
そんなことに構わずニコニコしているディーノに、仕返しをしようとは彼の頭に手を伸ばした。
膝立ちになり、乱暴に頭をグシャグシャにする。
ディーノの使っている洗髪剤か、整髪料かの良い匂いが香った。
髪型を乱すことへの抵抗が見られず、不思議に思って手を止めた。
顔を覗きこもうとし、彼の腕が自分の後ろへ回っていることに気付く。
気付いたときには、彼の腕に捕らえられていた。
顔がディーノの胸に埋まるのを避け、横を向かせた。
「は相変わらず小さいなー」
「まあ、ディーノさんに比べれば、そりゃあ」
動揺も緊張もなく、しかしは体を起こそうとする。
「ディーノさん、ちょっとすいません、この体勢は息がしづらいので向きを変えてもいいですか」
ディーノの腕の力が緩んだ。
は体の向きを変え、ディーノに背を向け、後ろから抱きしめられる体勢になる。
「…寒いんですか?」
「そうだな、寒い」
「それでは体温お貸しします」
そう言って、ディーノに背中を預けた。
しかし、本当は寒くなんかないことをは分かっている。
そして、嘘だと分かっているのに分かっていないフリをしていることをディーノは分かっている。
「ツナに、言ったのか?」
「はい、言いましたよ」
「そっか」
言葉を選ぶように一瞬躊躇うが、そんな必要もないかと、ディーノは続けた。
「ツナは、なんて…」
「返事は、貰ってません」
「ずるいな」
「ずるいですよ」
フフッと笑うを見て、ディーノは溜め息にも似た笑いをこぼした。
そして、の体に回した両手に力を入れ、彼女の肩に顔を埋める。
「返事なんて、いらないんですよ。分かりきっていますから。だから、返事のなかったことに甘えて、ずっと傍にいたいんです」
「同じこと、随分と前に誰かに言った覚えがあるな」
「受け売りです」
「結構、それも辛いぜ?」
「覚悟の上です」
微笑みながらも、力強い言葉。
ディーノは、更に腕に力を込めた。
「ツナが、羨ましいな」
ポツリと呟いた一言は、意識的にの耳を素通りし、消える。
更に腕に力を入れ、の体を縛った。
それでも満足することは全くできず、更に力を入れる。
囁くような、優しい彼女の言葉が聞こえても、それでもずっと、更に、更に、更に更に更に…
「ディーノさん、痛いです」
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