「あ、雲雀さん!おはようございます!」


朝、校庭に佇む彼を見つけて声を掛けた。

彼はいつもの嫌な笑いを浮べ、仕込みトンファーを手にした。

は懲りずに戦う意思などないことを示さんが為、満面の笑みで彼を迎える。


「おはよう」


そう言うが早いか、彼のトンファーは真っ直ぐに狙いを定めて振り下ろされる。

軽く避けるを更に攻め立てる。

それでも抗戦の意思を見せないに苛立ち、眉をしかめる雲雀。


「そんなに余裕かましてたら死ぬよ」

「やれるなら、やってみたらいいじゃないですか」

「咬み殺す」


挑発的な言葉に、一層勢いを増す攻撃だったが、それでもには当たらない。


「そういえば、私雲雀さんに聞きたいことがあったんですけど」

「…」

「雲雀さん、私の名前覚えてます?いつも君としか呼ばれないから…」

「そんなの必要ないよ」

「…」


はスカートの下に仕込んでいた己の武器を取り出し、雲雀のトンファーを左右で受け止めた。

普段使用している、三段の組み立て式のものだが、今回は組み立てないままの二本を左右の手に一本ずつ持っている。

鈍い音がして、雲雀の腕が止まる。


「じゃあ、私が雲雀さんに勝ったら、私のこと名前で呼んでくれませんか?」

「なんで?」

「雲雀さんに、認めて欲しいからです」


私達、ファミリーになりますから。という言葉も待たず、雲雀はトンファーを引き、もう一度構える。


「なんでもいいよ。君を咬み殺せるなら」

「約束ですよ」


そう言って、は残りの部品も出し、一本の長い棒を組み立てた。

ソレは、銀でできており、日の光を受けて鈍く光った。

地を蹴り上げ、素早い動きで雲雀の左に回りこむ

突然の交戦姿勢に、それでも怯むことなく雲雀はの動きを追う。

しかし、雲雀の目はを捉えることなく一瞬の隙をうんだ。


「どっち見てるんですか?こっちですよ」


その声が背後から聞こえたかと思えば、雲雀の肩に重たい銀の棒が乗せられる。

不機嫌さを顕にして、その感触を乱暴に払い、背後にトンファーを打ち込む。

身を後ろに軽く引き、もう一度雲雀の視界から消える

次は、雲雀の背後から首筋に、冷たい棒があたる。


「雲雀さん、約束ですよ」

「…」

「あ、私の名前、覚えてますか?私の名前は――」

「知ってるよ」


の言葉を遮り、悔しそうに身を離す雲雀。

棒を引っ込めたは雲雀と向かい合う。

トンファーを握ったまま、けれども戦う意思を持たなくなった雲雀は、黙ったままを見た。

しばしの沈黙

にこにこと、雲雀の言葉を持つ





そう呼ばれ、はあれ?と首を傾げる。


「名前は?」

「うるさいよ。約束どおり呼んだよ。それじゃあね」

「ええ、苗字ですよ。…苗字を覚えててくれたことにも感動ですが」


身を翻し、去っていく雲雀。

溜め息をついて、その姿を見おくる。


「次は、名前で呼んでくださいねー!」

「呼ばない」

「ええー、なんでですか」

「君とはもう話したくない」

「あ、ちょっと名前…!また君に戻ってますよ」

「…」


振り向いてくれない雲雀が、どんな表情をしているか窺い知ることはできなかった。

それでも、はそれまでより雲雀に近づけたことに喜びを隠せず、嬉しそうに笑う。


「雲雀さん、今度応接室に遊びに行きますね!」

「…勝手にしなよ」


予想外の返事に、また嬉しそうに笑う。






なんてことのない、平凡で幸せな、日常














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