2限目開始のチャイムが鳴る。

獄寺と山本、それにツナは授業に慌てて行った。

俺とはそのまま屋上に残っている。

はずっと、立ったままフェンス越しに空を見ている。

そうすると、俺の居場所はの隣しかない。


「・・・」

「・・・」


沈黙

時折、風の鳴く声がする。

そしての髪をなびかせる。

はずっと空をみている。

だけど俺は、ずっとをみている。


「…転校初日に授業サボっちゃいました」

「俺が許すからいーぞ」

「あはは、ありがとうございます」


から言葉を発した。

正直、助かったと思った。

どうも俺は、が相手になると上手くいかなくなる。

彼女を励ましたり、喜ばしたり、そういうことが、どうすればいいのか分からなくなる。

他の奴ら相手だと、そんなことにはならないのだが。


「沢田君、困ってましたね」

「そうだな、でも、気にすることはないぞ」

「…はい、予想通りっていえば、予想通りですし」

「…頑張ってたな」

「あ、分かっちゃいました?」


えへへ、と照れくさそうに笑う。

その仕草がどうしようもなく愛しいけれど、今自分が頑張ったところで彼女を抱きしめるはおろか、頭を撫でてあげることすらかなわないのだ。


「そういえば、がツナをそんなに好きだったなんて俺も初耳だったぞ」

「そうでしたっけ?」

「ああ…」


「何故」その二文字を口に出すのが躊躇われた。

しかし、どうしても、知りたかった。

その言葉が、口先まで出かかったとき…が、俺の目を見た。

その顔は、柔らかく微笑んでいて、そのまま、立てた人差し指を自身の唇の前に添える。

『内緒です』

その、何よりも堅固なガードを破れるはずもなく、俺は言葉を飲み込んだ。


「俺と婚約したら、一番手っ取り早いぞ」

「あはは、そうですねー」

「将来、絶対捕まえるからな」

「楽しみにしてます」


が何処まで本気で取ってくれているのかは分からないが、それでも、俺の言葉に嘘はない。

今はまだ、こうやって隣に並んで、の元気を出す為の言葉を模索するしかない。

そして、の笑顔で満足してしまうのだが…




きっと、もう、そう遠くない将来、これだけでは満足できなくなってしまうのだろう








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