a clockwork
memory












男の子には少し不似合いな可愛いハートのペンダント。

それを大切そうに見つめるロロの隣に、私は腰を下ろした。


「ロロ、これあげる」

「え?」


私は先ほどから手に持っていた、青い包装紙でラッピングされた長方形の箱を彼に差し出した。

不思議そうに顔を上げたロロは、そのプレゼントを見て少し驚いたようだ。


「昨日誕生日だったんでしょ?」

「え…どうして……」

「それ、ルルーシュと一緒に買いに行ったの。もうちょっと男の子向けのにしたらって言ったんだけどね、ルルーシュってばそれが気に入っちゃったみたいで」

「あ……」


私がペンダントを指して話をすると、彼は少しだけ寂しそうにそれを見つめた。

その眼差しの意味など分かりようもない私は、再びプレゼントを差し出す。


「だからこれ、私から。私も一緒に買っといたんだ」

「僕に、ですか?」

「当たり前でしょ。本当は昨日渡したかったんだけどさ、兄弟水入らず、邪魔しちゃ悪いと思って」

「ありがとう」


いつもの彼が見せる、どこか作り物めいた微笑とは違う笑顔を一瞬見れた気がした。





彼は神秘的な人だ。

少なくとも、私はそう思っている。

温和そうでお人好しそうな顔をしているけれど、どこかで一線を引いている。

他人を拒絶するように、一人でいようとする。

私はロロのことを何も知らないから、それ以上のことを考えてもしょうがないと分かっているけれど。

ただ、ルルーシュといるときに時折、一瞬だけ垣間見せる本気の笑顔が私の胸を打った。

切なくて悲しくて、儚い笑顔が私を惹きつけた。

それとは全く裏腹に、やはり時折見せる無の表情。

何もかもが退屈であると言いたげな、何者にも期待しない顔。

怖くて不気味で、重々しいその表情も私を惹きつけた。

彼に歩み寄るのはとても怖かったし、手探りで何も分からなかった。

それでも立ち止まることなどできなかったし、したいとも思わない。


「ねえロロ、開けてみて」

「あ、はい」


彼は丁寧に、ゆっくりとテープを剥がした。

包装紙が破れないように、まず箱の側面で止められたセロハンテープを剥がす。

その後、箱を裏返して背に止められていたテープを剥がす。

それが大切なものであるかのように、それが貴重なものであるかのように。

繊細な糸を紡ぐような彼の指先が、ゆっくりと包装紙の中から長方形の箱を取り出した。

箱を開ける前に、取り除いたばかりの包装紙を綺麗に折りたたみ、汚れないよう脇に置いた。

やっと箱に指を触れ、そっと蓋を開けた。

彼の一連の動作は、まるで神聖な儀式であるかのように大切に行われているのが分かった。

私は急かす気持ちもいつしか忘れ、彼の動きに魅入った。

彼が開いた蓋の中には、時計が入っている。

私が買ったものだ。

ショーウインドウに飾られていたチェーンのついた小さな時計。

ローマ数字の並んだアナログの時計が珍しくて、思わず手に取った物だった。

しかし今、ロロの手に包まれたその時計は私が買ったその時とは印象が変わっていた。

何となくデザインが気に入っただけだった筈のその時計は、まるで最初からそこにあったかのように、彼の為に生まれてきたかのように絶対的な存在感を伴って馴染んでいた。

「ありがとう」と嬉しそうな声が聞こえた気がしたけれど、どこか遠くで響いていた。

聴覚がおかしくなってしまったように、私の感覚は視覚に支配されている。

時計と笑顔、ただその二つが私の視界を心を捕らえた。


チッ チッ チッ


秒針がたてる音が耳に届き、やっと静寂に気付いた。

黙り込んでしまった私の顔を不安そうにロロが見ていた。


「気に入ってくれた?」


慌てて取り繕うように、お決まりのセリフを吐く。

いつの間にか、普段の表情に戻ったロロは「はい」と短く頷いた。

手に握り締められたままの時計。

きちんと蓋を閉めて置かれている長方形の箱。

丁寧に折り畳まれた包装紙。






チッ チッ チッ






秒針が時を刻む。

一秒一秒をハッキリと刻む。



「ねえ、ロロ」

「なんですか?」

「秒針が時間を刻む音、聞こえるでしょ」

「はい」




この音を聞く度に、ロロは私のことを思い出してくれるだろうか。

止まることのない時間の流れを感じる度に、彼は私を思い出してくれるだろうか。




チッ チッ チッ





静寂が訪れても、時を刻む音は消えぬまま。

私は彼に、止まることなく刻み続ける思いを一言、告げた。



















... a clockwork memory













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