未来予想図













暗い部屋の電気をつける。

ベッドに座り、携帯電話を眺めていたロロが驚いたように顔を上げた。


「明かりくらいつけたら?」


私の顔を見て、少しムッとしたように顔を顰める。

私はベッドに歩み寄り、ゆっくりとロロの隣に腰を下ろした。


さんは、嘘をついていたんですね」

「嘘?」

「兄さんのこと、知ってたんでしょう」

「うん。ロロよりずっと前から、知ってた」

さんがそんなに嘘がうまいなんて知りませんでした」


ブラックリベリオンの後、ルルーシュが学園に戻ったことを知った私は、内情を探る為に学園に戻った。

もちろんC.C.やカレン、卜部さんと連絡をとりつつだ。

ブラックリベリオン以前から一生徒にすぎなかった私のことを怪しむ人はいなかった。

唯一、黒の騎士団以外で私とゼロの繋がりを知る人物はスザクだが、彼はもうここにいない。

ロロという明らかに以前とは違う人物は、最も分かりやすい警戒の対象であり、逆に対応しやすかった。

そんな人物の前で、ボロを出すほど私は間抜けではない。


「嘘だって、うまくなるよ。やらないといけないことの為にはね」


ロロの様子が変わっていくのは、傍目から分かった。

時折洩らす彼の笑みが、温かみを帯びていくのをずっと見ていた。

偽りの学園生活。

先生も生徒も、誰にも心を打ち明けられないまま、笑って生活するのは苦しかった。

それでも、生徒会メンバーで騒ぐときの楽しさは偽りではなかった。


「ロロ、ルルーシュのことを守ってくれる?」

「……分かりません、僕には、まだ」


彼の手が、忙しなく携帯についているペンダントを触る。

その手が何よりの、彼の想いの証。


「兄さんは、ほんとに、僕のこと――」


迷って、それでも喜びを含んで呟いたロロの言葉に胸が締め付けられた。

ルルーシュはロロへの本心を私に語らない。

きっと誰にも語っていないと思う。

しかし、目の奥に宿った憎悪の念は、確かにロロに向けられていた。

ルルーシュが嘘をついていることが、何となく分かった。

真偽を確認したことはないが、私が気付いていることは、ルルーシュも分かっていると思う。

それでも私に何も言ってこないのは、彼が私を信用してくれているからだ。

私だって、ルルーシュを裏切る気なんて毛頭ない。

けれど――。


「ロロは、ルルーシュのこと好き?」

「僕は……僕は、兄さんのこと……」


ロロの目が泳ぐ。

もう彼の中で答えは出ている筈なのに、それを認めていいのか決めかねているような、そんな動き。


「ロロ、こういうときは、自分に素直になっていいんだよ」

「素直、に……?」

「ルルーシュに庇って貰えて、嬉しかった?」

「はい」

「これからも、ルルーシュと一緒にいたいって思う?」

「……はい」

「じゃあ、それが答えだね」


そう言って笑うと、今度はロロの手が優しくペンダントを握った。

はにかむ様に嬉しそうに笑ったロロの顔が可愛い。

彼は本当にルルーシュのことを慕っているのだ。

初めての兄、初めて自分を守ってくれた人、優しくしてくれた人として。

ナナリーちゃんの居場所に居座っている偽者の弟、ロロ。

だけど、ルルーシュへの思いは、本物。


「宜しくね、ロロ」

「え……」

「私とも、仲良くしてくれる?」


そう言って手を差し出し握手を求めると、ロロは驚いたように私の手を見た。

どうしたらいいのか分からないように、私の手と顔を交互に見る。

戸惑っているロロが可愛くて、私は差し出したままの右手を更に伸ばした。

ロロの空いている左手を握る。

少し冷たかったロロの体温が、次第に温まっていく。

オドオドとしていた彼の顔は、ゆっくりと解れて柔らかくなった。

温かい手が、懐かしいナナリーちゃんを思い出す。

いつか、ナナリーちゃんとロロが会ったとき。

きっとナナリーちゃんはロロをお兄様と呼んでくれるだろう。

いつか、ルルーシュとナナリーちゃんとロロと、私。

四人で紅茶を淹れて、話ができるだろうか。





ナナリーちゃんはロロに鶴の折り方を教えてあげるんじゃないかな。

最初はなかなか出来ないけれど、ロロはきっとすぐに上手に折れるようになる。

私はそれを見ながら二人の真似をして、3人で千羽折ろうと言って。

ルルーシュは本を読みながら、そんな私達を見て安心したように笑ってくれる。

それはきっと、暖かな日差しが差し込むテラスで。