ルルーシュが横たわっている。

彼の体は白い花で覆われ、その美しさが際立っていた。

私はルルーシュの頬に触れる。

ひやりと冷たく、それはまるで作り物のようだった。











パンドラの

















ルルーシュ皇帝の遺体は、生前の行いや民衆の評価からは想像もできないほど丁重に扱われる。

大きい立派な棺は、豪華な衣装に身を包んだ彼に相応しい。

再びこの世界に現れたゼロが押している車椅子には、泣き腫らした目のナナリーちゃん。

ゼロは言葉を発しない。

仮面の向こうで、何を考えているのか、表情は見えない。

ゼロとナナリーちゃんと私、三人は棺を前にして懺悔し、感謝する。


さん、私たちと一緒にいてはくださいませんか?」

「冗談。私は皇族でもなんでもないし」

「行ってしまわれるのですか?」

「うん」


寂しそうにナナリーちゃんが顔に影を落とす。

私はナナリーちゃんの前に屈みこんで、そっと頬に触れた。

彼女の頬は、ルルーシュとは正反対に熱をもっており、確かに生きていることを伝えてきた。


「ねえ。ナナリーちゃんとゼロに、お願いがあるの」

「なんでしょうか?」

「ルルーシュの棺をくれない?」

「え……」


ナナリーちゃんとゼロが、躊躇ったように体を微かに揺すった。

ルルーシュの遺体を収めた棺は、このままひっそりと、しかし丁重に葬られる予定だ。

しかし私には、どうしても彼を連れて行きたい場所があった。

それをルルーシュが生前望んでいたかは分からない。

だけど――世界に憎まれたまま死んでいった彼が、死して尚ここに留まらなくてはいけない理由もないんじゃないかと思う。


「私の最後のお願い。聞いて貰えないでしょうか?」


私は膝をつき、ゼロとナナリーちゃんの前で頭を下げた。


「頭を上げてください、さん……何処へお兄様を連れて行かれるのですか?」

「ナナリーちゃんの、もう一人のお兄さんの所へ」














静かな水平線を目でなぞった。

遠くで日が落ちていく。

私は、手に持ったスコップを再び握る。

手は泥だらけで、豆が潰れて血が滲んでいた。

足元に空いた穴は、まだ目標に達していない。


「棺サイズの穴を掘るのは、骨が折れるね」

「全くだ。しかも女二人でな」


隣で座り込み、海を眺めるC.C.が笑う。

そのC.C.の隣には、即席で作られた墓地と言うにはあまりにも簡素な墓標が立っている。

拾ってきた木を立てて固定しただけの、簡素で質素な墓。

そこに掛けられたハートの小さなペンダントが、石碑に刻まれた名前の代わりを果たしていた。

かつて命がけでルルーシュを救い、彼を前に歩かせたロロの墓。

ルルーシュが生前、私に地図を渡して教えてくれた場所だった。








 × × ×








、この場所を覚えておいて欲しい」


おもむろに広げた地図に書かれた、小さな小さな島。

その島を指差し、ルルーシュは寂しそうに言った。

私はその場所に何があるのか分からず首を捻る。


「ルルーシュが望むなら、私は何だって覚えるよ」

「ここに、ロロが眠っているんだ。だが、俺以外は誰も知らない」

「あ……」


ロロの顔が思い浮かぶ。

私は結局、彼の最後の姿を見ることができなかった。


「もし俺がいなくなっても、お前には覚えていてやって欲しい。ロロのことを」

「うん」

「あいつは、人一倍寂しがりだから」

「うん」


私はルルーシュの手を握る。

彼の手は、微かに震えていた。


「俺は、妹にも弟にも心配をかけてばかりで、ダメな兄だな」











 × × ×






彼の棺に、土をかける。

徐々に埋まっていく彼の棺は、抵抗しない静かな寝顔をしていた。

厳かな儀式のように、私とC.C.は順番に土をかける。


「C.C.は、これからどうするの?」

「さあな。はどうするんだ?」

「さあ」


何も分からないままの私たちは、顔を見合わせて笑った。


「私はもう、生きてないんだと思う」

「ルルーシュがいないからか?」

「うん」

「ルルーシュが聞いたら呆れるぞ」

「ほんとだね」


呆れたように私を見るルルーシュが簡単に想像できて、笑えた。

C.C.も呆れたように私を見ている。

私は動いている、今、彼を埋葬している。

だけど、自分が生きているという実感は湧かないし、生きていたいとも思わない。


「C.C.あのね、ロロのこと覚えていてあげてほしいの」

「私がか?」

「うん。あと、この場所のことを」

「この場所のことは、忘れられそうにないがな」

「そうだね。だから、私のかわりにロロのこともルルーシュのことも覚えていてね」

「お前はどうする?」


C.C.の問いには答えず、私はもう土で覆われて見えなくなった棺を見つめた。

ずっと、傍にいると言った。

傍にいさせて欲しいと、ルルーシュに言った。

何度も何度も言って、そしてルルーシュは答えてくれたのだ。


「ありがとう」


と。



だから、私は、彼の傍にいる。

これからもずっと――