天気のいい月曜日の朝。

はいつものように仕官学校へと足を進めていた。

校門に近付くと、人の行き交う中に一人佇んでいる不自然な人影が見えた。

その人影は、を視界にいれるなり、に向かって歩き出した。

遠目から見ても、顔に仮面を被っているその人が誰だかすぐに分かる。


「おはよう、

「おはよう、シャア。何してるの? こんな所で」


は、片手を挙げて爽やかに挨拶をしてくるシャア・アズナブルに訝しげな視線を向ける。


「愚問だな。を待っていたに決まっているだろう」

「……」


ため息を一つつくと、はシャアを通り過ぎて校舎へ向かう。

その背中を追いかけるシャア。

スタートが遅いのにも関わらず、歩行速度を上げることなくに追いつき、横に並ぶ。


、昨日は部屋にいなかったようだが。何処に行っていたんだ?」

「……なんでそんな事知ってるの?」

「休日は学校でに会えないからな。会いに行くのは当然だろう」

「そうやって、毎週毎週、私の休日を潰すのはやめて欲しいって言った……」

「しかし私の休日の過ごし方はそうなのだから、仕方ないだろう」

「シャアに自分の休日の過ごし方があるように、私には私で、休日の過ごし方があるの」


の言葉を聞いて、明らかに不愉快そうな顔をするシャア。

そんなシャアを尻目にが歩幅を広げようとした時、背後から軽快な駆け足の音が聞こえた。


「おーい、! シャア!」


聞き覚えのある声に、とシャアは振り向く。

手を振りながら軽快な足取りで駆けて来るのは、二人の級友であるガルマ・ザビだった。


「ガルマ、おはようー」

「おはよう、ガルマ」


二人に追いついたガルマは、息を整えの横に並んだ。

はガルマに歩幅をあわせて歩く。


、昨日は楽しかったよ、ありがとう」

「ほんとに? 嬉しい。私こそ、本当に楽しかったわ、ありがとう」

「……昨日? 昨日、はガルマといたのか?」


不満気な声を上げるシャアの言葉に、ガルマが答える。


「ああ、と映画を観に行ってきたんだ。その帰りにレストランで食事をして……」

「映画……! 食事……!」


衝撃を受けているシャアをは徹底的に無視する。

ガルマに至っては、そんな空気に気付いてすらいないようだった。


「あんな高級そうなレストラン、滅多に行けないから嬉しかったわ」

「そんな……まるでデートコースじゃないか! なんで私も誘ってくれなかった!?」

「そんなことで、騒がないでよ」

「そんなことじゃないだろう!?」


シャアはの肩を掴み、無理に自分の方へと向けた。

は五月蝿そうにしている。


「関係ないでしょ!」

「関係ある! 私はを愛しているのだから!」

「……」


シャアの声を聞いた生徒達が、いっせいにとシャアを振り向く。

周囲の目を気にして、はシャアの手を振り払った。

そのままガルマの方へ身を寄せ、ガルマの腕を取る。


「もう、そんなの聞き飽きたわよ、毎日毎日毎日……。ガルマといる方が、ずっと気楽で楽しいの!」

「え? 本当かい、。嬉しいよ、ありがとう!」


喜んでいるガルマの腕を引き、は校舎へと入っていく。


「ザビ家め…!!」


拳を握り締めて呟いたシャアの言葉を聞く者はいなかった。








並んで廊下を歩くとガルマ。

もう腕は掴んでいない。


は素直じゃないな」

「五月蝿いよ」

「私といる時だって、シャアの話ばかりじゃないか」

「そ、そんなこと、ないよ!」


ハハハッと声をあげて笑うガルマ。

は頬を赤く染めて、不満そうな顔をする。


はシャアが好きなんだろう? 何だかんだで、いつもシャアの告白をはぐらかしているけれど、きちんと振ったことはないな」

「……鋭いガルマって気持ち悪い。いつもはもっと鈍いくせに……っていうか空気すら読めないくせに……そもそも――」


ガルマへの不満を呟きながら前に出て、早足で歩く

照れ隠しの為だろうが、耳まで赤くなっているせいで、より一層の照れが伝わってしまう。

ガルマはそれを見て微笑んだ。


のことだからね。……私だって、好きな女性のことくらい分かりたいじゃないか」


語尾に近付くにつれて声が小さくなった為、その言葉は未だガルマへの小言を呟いていたには届かなかった。

しかし、一人で勝手に照れるガルマ。

ふと、が歩を止める。

それに気付いたガルマが声を掛けると、急には不安そうな顔をガルマに向けた。


「……こんな素直じゃない私じゃ、いつか愛想つかされちゃうよねえ」


複雑な思いを入り混じらせながらも、ガルマは笑う。


「そんなことないさ、シャアはそんな奴じゃない」

「そうかな?」

「そうとも。シャアは、きっとが何をしたってずっと、を好きでいるさ」

「ありがとう、ガルマ」

「お礼を言われることなんてないさ」


の胸のうちに「でもガルマって空気読めないからなあ、結局は気休めだよね」という失礼な思いがあったが、表面に表すことはなかった。


「あ、でも、昨日のレストランは本当に美味しかった! また行きたいな」

ならいつでも連れて行くよ」

「わーい、ありがとう、ガルマ! 大好きっ」


『大好き』というセリフに嫉妬したシャアが二人の間に割って入るのは、その数秒後のことである。














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シャアのことを弁護するガルマが切ない。



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