屋上。
日差しも良好。
私の目の前には沢田君、獄寺君、山本君。
(そういえば、沢田君という呼び方にも慣れてきたなあ)
隣にはリボーンさんがいる。
私は正座し、背筋を伸ばす。
そして、まっすぐに沢田君を見た。
沢田君の目は、躊躇いがちに私を見ている。
(可愛いなあ…)
緩んでしまいそうになる口元を引き締めた。
「それでは、今更という気もしますが。改めて言います。私、は、現在沢田君の婚約者ということになっています」
「ちょ、ちょっと待ってよ、それって、俺は全然知らないんだけど」
「そうでしょうね。えっと…」
何から話せばいいのやら、私はチラっとリボーンさんを見た。
リボーンさんは、一歩進み出て、説明を始めてくれた。
「の家は代々続く守護者の家系なんだぞ」
「しゅ、守護者?」
「そうだ。の家系に生まれた女子は、自分の婚約者となった相手を生涯護ることになるんだ」
「でも、そんなの、婚約とか、俺は聞いてないぞ!?」
「は生まれたときから、ボンゴレ10代目の婚約者になるって決まってたんだ。ツナが決めるまでもなくな」
「え…でも、それって…」
沢田さんが、私を見る。
その顔は、不安なのか悲しいのか哀れんでいるのかよく分からない顔だった。
「さんは、それでいいの?」
「はい」
「だって、さんは、俺と今日初めて会ったんでしょ?婚約とか、生涯護るとか…そんなの、さんはそれでいいの?」
「はい、いいんですよ」
沢田君は優しい。
自分の身に突然降りかかったことなのに、それでも私を心配してくれるのだ。
でも、私はこれでいいんです。
「なんで?だって、生まれたときからって、そんなのさんの意思じゃないんじゃないの?」
「いいえ、私は、沢田君のことが好きですから。生涯をかけて護れます」
キッパリと、ハッキリと、ずっと言いたくて言えなかったこと。
私は、沢田君が好きです。
「えっ…」
「私の家は、まあ、さっきリボーンさんが説明したような家系なんですけどね、それでも、ある程度は選択権が与えられるんですよ。私たち家の女子が、護る対象に対して『護る価値のない相手だ』『護りたくない』と判断したら拒否することができる。だからこそ、自分で選んだ相手を徹底的に守護する」
私は、沢田君のことを護りたいと、思った。
「家はそうやっていままで多くの偉人たちを護ってきたんだ。マフィアのボスなんかは、喉から手が出るほど欲しがるんだぞ」
「ラッキーだったな、ツナ」とリボーンさんが言うが、沢田君の表情は晴れない。
私は知っている。
沢田君にはもう、想い人がいることを。
だから…
「もちろん、選択権があるのは、私だけではありません。沢田君にもあります」
「えっ」
「私と将来結婚して第二婦人と置くも良し、キッパリ断るも良し、そこはあなた次第です。ですが、私自身は沢田君を護ると決めました」
そして、一呼吸おく…
「沢田君に、ハッキリと断られるまでは」
もし、ここで、嫌だとハッキリ言われてしまったらどうしよう、そんな不安で胸が締め付けられる。
顔がうまく笑えているか分からない。
不安げな表情になるのが怖くて、山本君も獄寺君もリボーンさんも見れなかった。
「えっと、あの…その、」
沢田君は、戸惑っていて返事ができないようだった。
即答で断られなかったことに私は安堵し、そして前々から用意していたセリフを発する。
「沢田君、こういうのはどうでしょう」
「え?」
「今すぐにお返事を出さずとも、時間はいくらでもあるのです。ですから、沢田君がお返事を出すその時まで、私はあなたを護ります」
「え…でも、さんは…」
「私はそれで構いません。むしろ、沢田君の傍にいられるのなら、それでいいんです」
沢田君は顔を真っ赤にし、さんがそれでいいなら…と呟いた。
私は、その一言が嬉しくて嬉しくて、嬉しくて
(だって、あの日からずっと、あなたに会うために、あなたを護るために、頑張ってきたのです。あなたはもう覚えていらっしゃらないようですが、私にとっては生涯を捧げても構わないくらいにあなたの存在は大きくなっているのです)
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