携帯電話が鳴った。 ディスプレイにはスザクの名前。 「もしもし、スザク?」 「、君、どうやって戻った?」 「私を置き去りにしたスザクに、教える義務が?」 「……俺は、ブリタニアに行くよ」 「そう」 「その前に、一度会えないかな?」 「そうね。私も、聞きたいことがあるから」 Good-bye and ... クラブハウスの前で待ち合わせをした。 学校はブラックリベリオン以来、休校になっている。 ブリタニア本国へ帰る生徒たちが自分の荷物を取りに来る姿がちらほら見えるが、以前のような賑やかさはない。 休校の為、生徒会メンバーで集まることもなくなってしまった。 クラブハウスの前で待っていると、スザクが歩いてくる姿が見えた。 私が片手を挙げて合図すると、スザクの足が軽く駆けた。 「スザク、久しぶり」 「久しぶりだね、」 クラブハウスに入り、ホールの中央にある階段に腰掛ける。 「ここ、久しぶりだな」 「そう」 懐かしそうにホールを見上げ、スザクが呟く。 私は素っ気無い返事しか出来ない。 「、今は何処に住んでるの?」 「内緒」 お互い顔を見ず、俯いたまま話を続ける。 「スザク、私のこと誰にも話さなかったんだね」 「は、実際に何もしていないんだろ」 「何もしてないんじゃないよ。何も、できなかっただけ」 「……」 私の言葉に、黙り込む。 スザクは手を組んで、言葉を選んでいるようだった。 私も、自分の中で言葉を選びながら、探しながら会話を進める。 「ルルーシュは?」 「もうすぐ、学園にもどるよ」 「え?」 意外なスザクの返事に驚く。 ルルーシュが学園に戻ってくる? するとスザクは、驚いた私の顔を真っ直ぐ見た。 「記憶を書き換えた。ギアスのことも、ゼロのことも、何も覚えていない」 「……何も?」 「ナナリーのことも、C.C.のことも。島でのことも覚えていない」 「……何が、言いたいの?」 「君の想いのことも、全部忘れてる」 「……」 最後に見たルルーシュの笑顔。 私が見たかったもの、彼に与えたかったもの。 「全部、なくなった」 スザクがきっぱりと言い放つ。 残酷なことをやってのける人になってしまったんだと、悲しくなった。 「そう」 「、君もブリタニアへ行かないか?」 「どうして?」 「君も全て忘れて暮らせばいい。他の生徒みたいに、君のお姉さんみたいに」 「知ってるんだね」 姉は、新しい恋人とブリタニア本国へ戻った。 姉にとって日本に滞在する理由などもうないのだから、当然の流れだ。 姉も新しい旦那も、一緒にブリタニアへ戻ろうと誘ってくれた。 だけど、私は断って、ここに一人残っている。 最後の日、向こうで両親と会えたら連絡してくれると言って、姉は海を渡っていった。 だけど、その連絡を私が受け取ることはないだろう。 教えた住所は嘘だし、学園に戻る気はもうない。 「私は、ルルーシュを待つよ」 「どうして?」 「ルルーシュが全部忘れてしまったなら、もう一度最初から始めればいい。何度だって、やりなおすよ」 「、前向きになったね」 「ううん。忘れられることに、慣れてるだけ」 自嘲気味に笑ってみせた。 姉もシャーリーも、そしてルルーシュも。 何度だって、仲良くなれる、好きになれる。 なってみせる。 「だから、さよならスザク」 「もし君がブリタニアに帰らないというなら、僕は君の記憶も書き換えなくちゃいけない」 「……私は何もできないのに?」 「ルルーシュが学園に戻ったとき、君の存在が厄介になる」 「なるほど」 「、ブリタニアへ行こう」 「そうね、考えてみる」 立ち上がり、スザクの顔を見ないままホールを横切る。 クラブハウスから出ようとすると、後ろからスザクに呼ばれた。 振り向くと、立ち上がったスザクが、悲しそうに私の顔を見ていた。 「、C.C.を知らないか?」 「知らない」 ドアに手をかけ、開く。 「スザク、ナナリーちゃんは?」 「……無事だよ」 「……そう」 スザクの言葉は、私に何も教える気はないみたいだった。 私も、スザクに何も教える気はない。 クラブハウスから出る。 「さよなら、スザク」 立ち尽くしたまま、悲しそうに私を見るスザクがドアの向こうに消えた。 そのままスザクが追いかけてこないよう、全速力で走った。 ルルーシュの記憶がなくったって、同じこと。 私にとってそれは、彼から離れる理由にはならない。 何度だって、振り向いて貰えるように頑張ればいい。 そう、何があっても同じことなのだ。 私が、彼を想い、彼の為にできることをやる。 ただ、それだけ。 Good-bye and ...LOOP << ○ |