実家へ帰った私が、最初に見たのは母だった。
母は、家へ嫁いだ武術家の娘だった。
父と共に、私が幼少の頃から戦闘能力を鍛えてくれた。
母の戦闘能力は、今や私に劣るとはいえ、決して低くはない。
その、母の、遺体が、私を迎えた。
× × ×
「――っ!?」
何が起こったのか分からず、思わず私は母に駆け寄った。
しかし、もう息のないことは一目瞭然だ。
体には、銃で撃たれた跡がある。
抵抗した様子は、ない。
見る限り、死んでからそう時間は経っていないようだった。
父が心配になり、私は立ち上がる。
何が起こったのか分からない限り、大声を出すわけにもいかず、ヒールの靴を脱ぎ、手に銃を握った。
家の中をゆっくりと静かに歩く。
人の気配は、ない。
一階フロアを見て回るが、何も見当たらない。
荒れた様子もなく、静かすぎるくらいだ。
私の心臓の音と呼吸が五月蝿く感じる。
次に2階へと歩く。
階段を上り、父の書斎へ向かった。
書斎のドアの前に静かに立つ。
中に、人の気配がする。
心臓の音がやたらと五月蝿く感じる。
ゆっくりと、ドアノブに手をかける。
握り締めると同時にドアを開き、銃を構えた。
父の机の傍に、私に背を向けて男が立っている。
私に気付いているのか、いないのか、動く様子はない。
私は銃を構えたまま、視線を下ろす。
男の足元には、父が倒れていた。
父の服は赤く染まり、床にも血が滲んでいる。
「…お、父さん…?」
掠れた、弱々しい声しか出なかった。
出してすぐに後悔する。
何者かも分からない男に、こんな声を聞かれてしまったことに。
「あなたは、誰!?あなたが、殺したの!?」
今更の虚勢を張り、精一杯の強い口調で男に声を掛けた。
男は、ゆっくりと振り返る。
知らない顔だ。
その男は、笑った。
私を見て、嬉しそうに、笑った。
「会いたかったよ、」
× × ×
「――!!」
目が覚める。
自分の体が、ビクッと痙攣したのが分かった。
全身に汗をかいている。
ゆっくりと起き上がり、周りを見渡す。
そこは確かに私の部屋で、安堵の溜め息が思わず出た。
そういえば、夕食があるんだった。
すっかり寝ていたが、大丈夫だろうか。
そう思って時計を見たが、時刻は17時をすぎたところだった。
まだ余裕があることに安心し、ベッドから降りると、荷物の片づけをはじめた。
あれから、何が起こったのか…思い出したくなかった。
自分自身、何が起こったのか、よく分かっていない。
ただ、事実なのは…両親が、死んだ。
私の知らない男の手によって。
あの、優しい母にもう会えない。
厳しかったけれど、それでも私の幸せを願ってくれた父に、もう会えない。
会えないのだ。
父の、母の、声を聞くことすらもう叶わない…!!
大好きなあの二人の声が、聞けない。
その事実が私の胸に突き刺さる…。
だめだ、だめだ、泣いては、いけない。
私の手に、雫が一つ、
落ちた。
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