夕食の席は、賑やかだった。

それは、昔も今もずっと変わらない、穏やかな時間。

その日は、の帰りを迎える為の食事だったので、テーブルの上には彼女の好きなケーキが沢山揃えられている。

それはどれも、綺麗にデコレーションされた、綺麗なケーキだ。

の目が輝いているのを見て、ツナは満足そうな顔をした。


「うわあ、こ、こんなに沢山!いいんですか?」

「もちろん、その為に用意したんだしね」

「あ、じゃあ、ハルも呼んでいいですか!?」

「勿論いいよ、そうだね、ハルも喜びそうだし」


甘党仲間のハルを電話で呼び出す

通常でない速さでハルは食堂に到着した。


「…お前、呼び出されるの待ち伏せしてただろ」

「はひ、そ、そんなことは…!!」


呆れたように言う獄寺に、ハルが動揺をみせる。

そして、またいつものように口喧嘩をはじめた。

すでに見慣れた風景であるそれを無視し、他の面々はテーブルについた。


「隼人、ハル、早くしないとご飯冷めちゃうよー」


の呼び声にハッとした二人は慌ててテーブルにつく。

仲が良いんだか悪いんだか…とは苦笑する。

食事が始まり、ツナはに実家の様子はどうだったかと尋ねた。

は、曖昧に言葉を濁し、話を逸らす。

その意図に気付いた者もいたが、だからこそ、深く追求するのを控えた。


「こっちはどうだったの?私がいない間に変わったことはなかった?」

「そうだね…がいなくて、凄く寂しかった」

「・・・」


予想外に率直なツナの言葉に、その場に一瞬の沈黙が訪れる。


「え、あ、それは、なんと言っていいのか…ありがとうございます」


お礼を言うも、あまりの恥ずかしさに「とは言っても、たったの一週間じゃない!」と照れ隠しの言葉を吐く。


「そうだね。それでも、うん、寂しかったんだ」


カチカチと、小さな音がする。

の手が、小刻みに震え、フォークと食器が当たっている音だ。

しかし、当の本人はそれに気付いていないかのように振舞う。

まるで、彼女の左手だけが意思を持って動いているように――。

しかし、もちろん以外の人間はその手を見てしまう。


、どうかしたのか?」

「え、なにが?どうもしないけど」


リボーンが尋ねるが、の反応は至って何事もないかのようで、それが逆に不気味だった。

しかし、段々と震えは大きくなっていき、の額に汗が浮いてくる。

それでも、平常を保とうとするかのように話を続ける。


「…?」


左隣に座っていた骸が手を差し出し、肩に触れる――

その瞬間、パシンっと乾いた音がした。

驚いて、を見る骸。

の左手に弾かれた手が、行き場なく固まっている。

の目は、自分の前にあるケーキの皿を凝視しているように見えたが、その焦点は定まっていない。

呼吸は荒く、既に汗は滝のように流れていた。


「…ごめん、体調悪くて…部屋に、戻るね」


苦しそうにそう言い残し、は部屋を出て行く。

その言葉が、後ろ姿が、誰も近付かないでと訴えてる。

残された一同は、ただ呆然とその姿を見送るしかなかった。


 × × ×


廊下をふらつきながら歩く

その口が何か言葉を呟いている。

しかし、絞り出されたような擦れたその声が廊下に響くことはない。

時折、比較的大きく口が開かれる。

それは、悲痛さに満ちた、ハッキリとした声だった。

近くで聞けば、まるで二人が会話をしているかのような、そんな違いがそれぞれの言葉にあった。




「やめて、出てこないで。やめて…」

「君ハ僕ノモノダ、僕ダケノモノダ」










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