きっと貴方は気付いていなかった。

だけど私は気付いていた。

私と貴方の身の内に、同じ火が灯っているということを。

そしてその火は、きっと遠くない未来、燃え盛る炎となるでしょう。







浸透







私はいつものように教室に入る。

窓際で、退屈そうに頬杖をつく彼を見つけ静かに歩み寄った。


「ルルーシュ君、昨日はありがとう」


きっと彼にとっては予想外だったであろう相手に突然声を掛けられ、少なからず驚くところを見られるかと思ったが、意外にも彼は平然と顔を上げた。


「別に、助けたつもりじゃない。勝手に車が動いたのを報告しただけだよ」

「それでも、お陰で私は殴られずにすんだんだし、お礼くらい言わせて」

「別に言うのは勝手だけど、殴られたくないなら何故あんな無茶を?」


特に興味があるというわけではなく、ただ世間話の延長であるといった様子で彼は話を続けた。

彼にとっては、ただのクラスメイトにすぎない私なのだから、その反応も当然かもしれない。

しかし、私はそれで終わらせるつもりは毛頭ない。

ずっと、話をしたかったのだ。


「ルルーシュ君が、助けてくれるって分かってたから」

「…は?」


ワケが分からないという顔をする。

その反応も至極当然だ。

私としても、本当にそこまで彼の助けを信じていたわけではない。

それでも、口を挟む勇気を出せたのは、路上にルルーシュその人を見つけたからに他ならない。


「ルルーシュ君は、ブリタニア人が嫌いでしょう?」

「っ!?」


ここで初めて彼のポーカーフェイスが崩れる。

作戦は上々だ。

このまま私のペースに乗せられたら大成功なのだが。


「なぜ、そう思う?」

「分かるよ。だって、私もそうだもの。同類のオーラっていうのかな、分かっちゃった」


クロヴィス殿下の話題や、ブリタニアの話をしているときの彼の反応は、私から見れば非常に分かりやすいものだった。

目が笑っていないのだ。

物腰も、やや柔らかく不自然に丁寧になる。

最初は気のせいかとも思ったが、次第に私の目は彼を追うようになり、そして確信に至った。


「ねえルルーシュ君、聞かれたくないなら理由は聞かないよ。だけどさ、私たち仲良くなれると思わない?」

「俺はまだ、肯定していない」

「え?……じゃあ違うの?」

「何故、どこでそう思ったんだ?」


敵愾心剥き出しのルルーシュは、まるで毛を逆立てた野良猫のようだ。

あまりの警戒状態に、思わず私は手を伸ばしていた。


「ルルーシュ君、かわいー!」

「うわっ!何を!」


頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

怒ったような声を出すのが余計に可愛くて、より一層強く撫でた。


「だって、ルルーシュ君、ポーカーフェイス下手なんだもん。ちょっと注意して見てたらすぐ分かっちゃうよ」

「……」

「ま、あれだ、女の勘ってやつですよ」


きっと今まで自分のポーカーフェイスに自信を持っていたのだろう。

口数少なくなる辺り、ショックを受けているのだと思う。




いつの間にか、ずっと目で追いかけていた。

どこか寂しそうで、何事にも無気力で、それでも時折驚くほどの憎悪と強い意志を瞳に宿す彼。

気がついたら、目を離すことができなくなっていた。


「ルルーシュ、私たち、仲良くなれると思わない?」

「……さあ」


拗ねた様な返事に、それでも今は満足して手を差し出す。

彼も、躊躇いがちにだが、手を握り返した。

きっと、本当に仲良くなる気はないのだろう。

ただ、知られたくないことを知られてしまったから、公表されることを防ぐために近付いておくに越したことはないとでも思っているに違いない。


「いいよ、今はそれで」

「は?」

「いつか、本当に仲良くなってみせるから」

「……」


考えを読まれていると悟ったのか、彼は少し悔しそうな顔をした。

しかしそれもすぐに引っ込み、あからさまな作り笑顔を私に向ける。


「ありがとう。友人が増えて、嬉しいよ」


その言葉をいつかきっと本心から言わせてみせるよと、心の中で宣戦布告をした。








それは、私と彼が1年生のとき。

いまではもう懐かしい、初めての触れ合い。





















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