私とルルーシュが出会ってから、一年が過ぎた。

二年生に進学し、平凡で退屈な日々をおくっている。






日々










「あれ、ルルーシュどっか行くの?」

「ああ、まあな」


今では私もルルーシュも生徒会に属しており、すっかり友人付き合いが定着していた。

昼休みだというのに、学校の外へと向かうルルーシュを発見し声を掛ける。

校門の前にリヴァルが立っているのが見えた。

サイドカーを手で支え、ルルーシュを急かしている。


「ああ、また賭け事ね」

「まあな」


悪戯っ子のような笑みを浮かべる彼の顔をみて、溜め息を一つつく。

もし私がシャーリーだったら、引っ張ってでも彼らを止めるに違いない。

しかし私は、どちらかといえばそう言ったゲームに胸をときめかせてしまうタイプである。


「まあ、ほどほどにね」

「分かってるよ」

「お土産はケーキでいいよ」


呆れたように手を払われる。

そのまま踵を返すと、リヴァルと一緒に出て行った。

私は、手に持ったお弁当を思い出し、友人の待つ中庭へと足を進めた。




× × ×





中庭で昼食を食べていると、やはりルルーシュの話が持ち上がった。

ルルーシュはと聞かれ、シャーリーが怒ったようにルルーシュの生活態度について話し出す。

箸をすすめつつも会話に耳を傾けていると、急に話題を振られた。


「ねえ、もそう思うでしょ?」

「へ、あ、ゴメン、聞いてなかった」


「もー」と拗ねたように言うシャーリーに手を合わせる。

会長が「ルルちゃんの賭け事についてよ」と解説をしてくれた。


「ああー、うん、さっき出て行く二人に会ったよ」

「ちょっと!止めなさいよ!」

「いや、うんまあ、私時々オコボレもらっちゃうし。いいかなあと」


彼女の意見に賛同できない気まずさから頭をかくと、口をあんぐりと開けたシャーリーの顔が眼前に迫った。

なにかマズイことを言ったかなと自分のセリフを回想し、やはり賭け事のオコボレがまずかったかと少し後悔する。

と、急にシャーリーに詰め寄られ、肩をつかまれる。


「私、ルルからそんなの貰ったことない!」

「え、あ、そ、そうなの?」


シャーリーが眉尻を下げて、悲しそうな顔をした。

同じ女ながらに、可愛いと思ってしまう。


「まあ、オコボレって言っても、ルルーシュがナナリーちゃんに買ってきたお菓子とかを貰うっていう感じだし」

「あー、はよく遊びに行くもんねえ」

「そ、そっか……」


会長が、納得したという顔で頷く。

シャーリーも理由を知って渋々離れた。

乱れた襟を整えていると、会長がニヤニヤと笑いながら私とシャーリーを見る。


「なんですか、会長」


怪訝な顔をして言葉を先に発したのはシャーリー。

会長は、相も変わらずニヤニヤとしている。


「いやー、ルルちゃんはおモテになるなあと思ってね。友人同士の恋のライバル、なかなか大変よねー」


思わず顔を見合わせる私とシャーリー。

曖昧に首を捻る。

私も彼女も、同じ人――ルルーシュに恋をしている。

だからと言って、別に醜い争いをしたりだとかそういったことはない。

まあ、お互いに些細ながらも嫉妬などの感情を抱いたことはあるだろうが。

それ以前に、私とシャーリーはお互いにルルーシュよりも付き合いが長いのだ。

まあ、高校に入ってから仲良くなったので大した差もないが。

とにかく、そう簡単に仲違いするような関係ではない。

こうやってお弁当を囲んで、女の子同士ではしゃいで、好きな男の子の話なんかで盛り上がる毎日が好きだった。

ルルーシュやリヴァルも含めて、生徒会メンバーでお祭りをするのが好きだった。



しかし、そんな日々が永遠でないことを私は知っている。

知っているからこそ、一日一日を後悔しないよう暮らすのだ。




この日、午後の授業にルルーシュは姿を現さなかった。








 × × ×




日が暮れた。

どんどん濃くなる自分の影を見つめながら、溜め息をついた。

クラブハウスの前で階段に腰掛けて、私は彼の帰りを待っていた。


?どうしたんだ、こんな時間に」


私の足に、私のものではない影が落ちる。

顔を上げると、待ちわびた人物の姿があった。


「ルルーシュこそ、帰りが遅いんじゃないの?」

「俺は、まあ色々あってさ」

「リヴァルは、授業に戻ってきてた」

「……俺を待ってたのか?」

「うん」


一歩、ルルーシュに近付く。

ルルーシュの顔は、今日の昼に別れたときよりもやつれて見えた。

気まずそうに、彼は私を見る。


「中に入っていればよかったのに。ナナリーと咲世子さんは?」

「中にいると思うけど……なんだか、私は嫌な予感がして、ここで待ってた」


そっと、彼の頬に触れる。

ルルーシュは反射的に身を震わせた。


「何か、あった?」

「どうして?」


私の目を見ない。

一歩、彼が身を引いた。

ほんの数時間前まで確かに友人だったはずの彼は、まるで私の知らない人になってしまったようだ。


「分かるよ、見てれば」

「……は、いつもそうだな」

「いつも?」

「初めて会ったときも、そうだった。には隠し事ができない」


ルルーシュが俯いた。

彼の顔に落ちる影が、一層濃く見える。

一歩の距離を二歩進んで縮める。

何も反応なく、彼はゆっくりと深く項垂れた。

私の肩に、ルルーシュの額が圧し掛かる。

髪が少しくすぐったくて、私は目を細める。


「今日は、疲れた」


耳のすぐ傍で、ルルーシュの呟きが聞こえた。

ぐったりと疲労感の漂う彼にそれ以上なにも言えず、ゆっくりと背中を撫でた。

誰も居ない、静かな夜。

あまりにも静かで時間の経過も分からず、私とルルーシュはしばらく二人で佇んでいた。


「ナナリーちゃんが、ルルーシュ待ってるよ。夕食一緒に食べるって言ってた」

「それを先に言え」

「うん、ごめん」


言葉とは裏腹に、彼の動きは緩慢だった。

ゆっくりと私から離れる。

重そうに足を持ち上げ、歩き出した。

立ったままそれを見つめる私を気だるげにルルーシュが振り返る。


、夕食、食べていかないのか?」

「え、あ、いいの?」

「何を今更」

「はは、そ、そうだよね」


軽く笑うルルーシュに安堵し、彼に続いてクラブハウスの中に入る。

彼に何があったのか、気になるのが本音だが、とても聞けるような雰囲気ではなく口を噤む。

一年、友人として付き合ってきたが彼についてはまだ知らないことだらけだった。

ブリタニアを憎む理由も初めて話したとき以来、互いに触れないままできた。

だから今更、彼に説明を求めるつもりはない。


「ルルーシュ、ゆっくり休みなよ」

「ああ」

「私は、ルルーシュの味方、だから」

「……ありがとう」


これが、今の私には精一杯だ。



だけどせめて、気持ちの半分だけでも彼に伝えられることが出来たらいい。

手を伸ばして、ルルーシュの手を握った。

彼はそれを握り返すことなく、しかし振り払うこともなく、歩き続けた。





平凡な日常が終わりを告げる。



















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