共有するもの ルルーシュと二人で教室に戻ると、嬉しそうな女の子の声が聞こえた。 教室の中心で、数人の女子生徒がはしゃいでいる。 その中央に座っているのは、同じくクラスメイトのカレン・シュタットフェルトさん。 久しぶりに見る顔だった。 体が弱く、なかなか学校に来れないと話を聞いたことがある。 去年もあまり姿を見ることはなく、きちんと話をしたこともない。 しかし私は、一年の頃から彼女を知っていたし、話をしてみたいと思っていた。 ルルーシュを見ると、彼の視線はカレンに釘付けだった。 また何かを考えているような顔。 彼女もまた、ブリタニアへの敵意を抱いた目をすることがある――ルルーシュに伝えようかとも思ったが、彼の思考を邪魔するのも申し訳ないので今はやめておいた。 カレンを見つめ続けるルルーシュをリヴァルがからかう。 シャーリーが、不安げにそちらを見るが、どう見てもルルーシュの目はそんな好意的なものではない。 タイプは違うが、私から見れば意外な共通点のあるルルーシュとカレンさん。 カレンさんにそういった一方的な親近感を持っていただけに、ルルーシュが彼女に興味を示しても不思議ではないと思っていた。 思っていたが、しかし、こうも何の前触れなく急にカレンさんへ視線を向けるルルーシュには、やはり疑念を抱かざるをえない。 何か、あったのだろうか。 × × × いつものように、会長やシャーリー、ニーナと昼食を食べた。 シャーリーは、カレンを見つめ続けていたルルーシュのことをやたらと気にしている。 「ルルーシュだって男の子なんだから、病弱で綺麗なご令嬢とあっては興味を引かれないわけにはいかないんじゃない?」 「え、ええー」 「案外、既に付き合っちゃってたりして!」 「そ、そんなー!!」 「いや、それはないでしょう、落ち着いて、シャーリー」 会長にからかわれて、面白いくらいに反応するシャーリーに声をかける。 「は随分と平気そうね」 「まあ、なんかと言うか、あの二人はそんな関係にはなりそうもないなっていう感じが……」 「ふーん、冷静なのね」 つまんない、という会長の呟きを「面白がらないでくださいよー!」とシャーリーが非難する。 全くだとシャーリーに同意する私。 遠目に、中庭の少し離れた所で友人達とお弁当を広げる噂のカレンさんが見えた。 シャーリーと教室に戻る途中、廊下で急に彼女が立ち止まった。 思わず数歩彼女を追い越した私は、動きの止まったまま、視線を窓の外に向けているシャーリーを呼ぶ。 「シャーリー?どうしたの?」 「……、あれ」 彼女が指差した先には、中庭の隅で話しているカレンさんとルルーシュの姿があった。 つい、シャーリーと同様に棒立ちになり、中庭の二人に注目してしまう。 何の話をしているのか、もちろん分かる筈もない。 遠目すぎて表情もよく見えないがしかし、初対面であるはずの二人が、えらくスムーズに話をしている……ように見える。 一度、ルルーシュは会話を終えてカレンに背を向けるが、また振り向く。 ……会話の名残を惜しんでいるかのような行動だ。 少し嫉妬してしまった私の心とシンクロしたかのようにシャーリーが、身を乗り出すと、窓を開け中庭に向かって声を出した。 「ルールー!カレンさーん!」 ハッとしたようにルルーシュとカレンがこちらを見る。 「次、理科準備教室だよ!急がないとー!」 「やっべ!実験器具出さなくちゃ!」 シャーリーのセリフに慌ててルルーシュが走り出す。 カレンは去っていくルルーシュを引き止めるかのように腕を伸ばすが、すぐに引っ込めてこちらを見た。 「カレンさんも、急がないとー!」 シャーリーが急かすと、大人しそうに頭を下げてカレンさんも早足でその場を去った。 私は中庭から視線をはずすと、シャーリーを見た。 シャーリーは、少し落ち込んだ顔をしている。 「シャーリー?」 「私、嫌な女だよね……」 普段が素直で友人思いの彼女だから、罪悪感に苛まれているのだろう。 「……まあ、シャーリーがやらなかったら、私がやってたけどね」 「そんなことないよ」と、言わない。 否、言えないのが私たちの関係だ。 お互いに目を合わせ、私は自嘲気味に笑った。 シャーリーもまた、薄く笑う。 「さ、私たちも、行こう」 「うん」 私とシャーリーは並んで教室まで歩いた。 私たちは恋敵だけど、想いを共有できる仲間でもあるのだから――。 << ○ >> |