消えない不安と、生まれた安堵。

秘密の共有。

何かが解決したわけでもない。

だが、私の中で何かが大きく一歩進んだのだ。






積み木崩し












昼、授業が終わりいつものようにランチタイムを過ごすべく生徒達が立ち上がる。

私もシャーリーやニーナの元へ足を向けようとし、足を止めた。

教室を一人足早に出て行くカレンさんが見えた。

そしてそれを見つめるルルーシュ。

カレンさんの姿が見えなくなり、私の視線に気付いたルルーシュは首をかしげた。


「どうしたんだ、

「いや、なんでも」

「そうだ、、今度の論述試験の問題教えてやろうか?」

「え、なんで?」

「冗談だよ」


ワケの分からない私を置いてけぼりにして、イタズラっぽく笑った。

追求しようとする私を軽やかに無視し、彼も教室から出て行く。

ふと、廊下で私を待つシャーリーとニーナが見えたので、そちらへ駆けた。





 × × ×





放課後、帰り支度をするルルーシュにシャーリーが近付いた。

会長からこの後の呼び出しがかかっているので、それを彼に伝える為だ。

しかし、ルルーシュはシャーリーの言葉を素っ気無く遮り、真っ直ぐ教室の中央で女子生徒に囲まれているカレンさんの前に立った。

呆気にとられるシャーリー。

何か理由があるのだろうと分かっていつつ、やはりハラハラする私。


「ちょっと付き合ってくれないかな?話したいことがある」

「へ?」


ルルーシュのカレンさんへの言葉に真っ先に反応したのはシャーリーだ。

目を大きく開き、驚いている。

そんなシャーリーを尻目に、当の本人であるカレンさんは至って冷静。


「ええ。誘ってくれると思ってた」


周りの女子生徒から飛ぶ、好奇な黄色い声。

心底驚き戸惑うシャーリー。

私はといえば、あまりの会話に開いた口がふさがらない。

二人は連れ添って、教室から出て行った。

女子生徒たちの間に飛び交う憶測。

シャーリーは物凄い速さで私の前に移動した。


「ちょ、ちょちょ、る、ルルが!」

「う、うん」

「え、か、カレンさんと!?」

「う、うん」

!落ち着きすぎだよー!!」


今にも泣き出しそうなシャーリーの顔。

とは言っても、私も冷静でいるわけではなく。

そんな関係にならない二人だと思っていても、もしかしたらという可能性もある。

これを機会にどんどん仲良くなって――想像したら、予想外にショックが大きい。

考えないようにしようと、シャーリーを宥める。


「と、とりあえず、クラブハウスに行こう!」




 × × ×


クラブハウスに着いた私たちを迎えたのは、豪勢な料理を準備しているミレイさんと、それを手伝うリヴァルだった。

事態が分からず立ち尽くす私とシャーリーを見て、リヴァルは「遅いよー」と口を尖らせる。


「えっと、これは?」

「歓迎会の準備よ」

「誰のですか?」

「カレンさん、生徒会に入るから」

「え!?」


私とシャーリーは同時に驚く。

まさに寝耳に水だった。

その顔をみて満足そうに笑ったミレイさんは、周りを見回すと姿の見えない彼の姿を探した。


「あら?ルルーシュは?」

「えっと、カレンさんと二人で……何処かへ」

「ああ、じゃあ、カレンさんはルルーシュが連れてきてくれるのね」

「あ、ああ、そういうことか」


納得し、安心したようにシャーリーを見ると、彼女もまた安堵の息をついていた。

今度は私が尋ねる番だ。


「でも何故、カレンさんが生徒会に?」

「体が弱いから、普通に部活動は難しいだろうってお祖父ちゃんに言われてねー」


ここアッシュフォード学園は全員何らかの部に所属するよう決められている。

確かに体が弱い上に出席も少ない彼女がどこかに入部するとなれば、気まずいことこの上ないだろう。

成績も優秀らしいし、生徒会が適任かもしれない。

私とシャーリーも慌てて歓迎会の準備を手伝い始める。

ホールのセッティングをしていると、二階でニーナがなにやら慌てているのが見えた。


「ニーナー?何やってるの?」

「あ、そ、その…実験のデータ落としちゃって…」


申し訳なさそうに、小さな声で答えるニーナ。

私が階段を上ってニーナの所へ向かって行くと、同じく準備をしていたリヴァルとシャーリーも気にしてついてきた。

とても小さいものらしく、ニーナは立ち尽くしていた。


「どの辺り?」

「この周辺だと思うんです」

「そっか、じゃ、ちゃっちゃと皆で探しちゃお!」


シャーリーが声をかけ、リヴァルと私も賛同する。

四人で床に膝をつき、捜索を始めた。

途中ミレイさんが姿の見えない私たちを探しに来たが、四人そろって床を這っている姿を見、大笑いして料理の準備へ戻った。

しばらくして、「あっ」とシャーリーが小さく声を上げたかと思うと立ち上がった。

手には小さなチップを持っている。


「あったあった!ほら、これでしょ!」

「あ!それです、実験データ」

「やれやれ、腰イテー」

「見つかってよかったあ」


ニーナの嬉しそうな声を合図に、私とリヴァルは立ち上がる。

四人で健闘を称えあうのと同時にミレイさんが支度を終えてホールに料理を運び込んだ。

よく見たら、ホールの隅ではルルーシュとカレンが到着している。

豪華な料理に感動する私たちは、階段を下りてホールへ戻る。

あまり事態が飲み込めていないルルーシュとカレンさんに、ミレイさんが私たちのときと同じような説明をする。

知っていたわけでもないのにカレンさんを連れて来たルルーシュに、やっぱり二人には何かあるんだと思ったが、この雰囲気を壊すわけにもいかないので気付かないフリをした。

とにかく全員でカレンさんに自己紹介をし、歓迎会を始めた。


「さて、まずは乾杯といきますか!」

「あ!シャンパン!」


真っ先にお酒を取り出すリヴァルに抗議するシャーリーとニーナだが、そんなことお構いなしでリヴァルはコルクを抜こうとする。


「駄目に決まってるでしょ!」


とっさにリヴァルの腕を掴み、シャンパンを取り上げようとするシャーリーだが、なかなか難航しているようだ。

ニーナは取っ組み合いから少しはなれ身構えている。

何が起こっているのか見えないナナリーちゃんは首を傾げるが、ミレイさんによってジュースを手渡される。


「ナナリーはこっちね。は?」

「もちろんジュースで。あ、ありがとうございます」


ミレイさんが私にもジュースを渡してくれる。

乾杯まではまだ時間がかかりそうだとナナリーちゃんに説明し、賑やかな二人を見守ることにした。

シャーリーを避け、シャンパンをルルーシュにパスするリヴァル。

反射的にそれを受け取ったルルーシュとシャーリーが今度は取っ組み合い、結果――


「あ」


緩くなったコルクが抜け、泡立ったシャンパンが綺麗に弧を描いて吹き出した。

正確にカレンの頭に命中する。

何が起こったのか首を傾げるナナリーちゃん以外、一同の動きが止まる。


「ごめん」

「ごめんなさい」


ルルーシュとシャーリーが同時に謝った。

シャンパンを髪から滴らせるカレンは頭から足までを濡らせて、呆然としていた。



 × × ×




中断となった歓迎会。

シャーリーと会長がカレンの制服を洗濯に、ルルーシュは咲世子さんと着替えを取りに、リヴァルはシャンパンを持ち込んだ罰として、濡れた床の後始末だ。

私は手持ち無沙汰にしているナナリーちゃんの為にテレビをつけ、ホールの片づけをするニーナを手伝った。

テレビから、あまり良いニュースは聞こえてこない。

黙々と食器を片付ける私の耳に、緊急速報の効果音が聞こえてきた。

『緊急ニュースです。く、クロヴィス殿下が……お亡くなりになりました』

ニュースキャスターとして失格なほど戸惑ったアナウンサーの声が聞こえた。


「え…?」


私は思わず声を出し、テレビを見る。

画面の中には、冷静を保てないままのアナウンサーが必死で原稿を読んでいる。

私とニーナがテレビの前に移動すると、遅れてリヴァルも来た。

タイミングよくシャーリーとミレイさんもホールに入ってきて、テレビ前に釘付けになっている私たちを見ると不思議そうな顔をした。

テレビの中では、相変わらずハッキリと状況の分からない解説をしている。

廊下からルルーシュの話し声が聞こえた。


「お兄様、大変!」


ナナリーちゃんがそちらへ顔を向けると、ルルーシュは驚いたように立ち止まる。

隣にはルルーシュの服に着替えたカレンもいる。

クロヴィス殿下が誰かに殺されたらしいと説明すると、二人も驚いてテレビに視線をうつす。

関係者からの記者会見VTRが流れ、そして、この事件の実行犯が捕まったという報告が入る。

画面に映し出されるのは、軍人に捕まり運ばれる、拘束着を着た日本人――名誉ブリタニア人だった。

画面下部にはSuzaku Kururugiと書かれている。


クルルギ スザク



「まさか」


小さく呟いたルルーシュの声が、私の耳に届いた。
































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