後悔の参列 シャーリーの父の、墓前に立つ。 生徒会メンバーも、全員が黙ったまま棺が埋葬されるのを見守った。 黒尽くめの集団。 泣き声が耳に届き、心に鉛が落ちるようだ。 ルルーシュは、黙ったまま俯いている。 悲痛な顔は演技ではないだろう。 シャーリーの父は、ナリタで巻き込まれて命を落とした。 黒の騎士団が、ゼロの計画で、ゼロが――。 私は、知っていた。 ルルーシュがゼロであることを知っていた。 シャーリーの父だけじゃない、もっともっと多くの人の命を奪ってきていることを知っている。 知っているけど、止めたことはない。 止めようとした事だってない。 いつだって、ルルーシュのことを案じてルルーシュのことを考えて、分からないわけじゃなかった。 ニュースで黒の騎士団の活動が報道される度、黒の騎士団が成功したと知るたび、安堵していた。 もちろん、知っていた。 相対する側の人間がいて、中には一般人もいて、その人たちの血を犠牲にしてルルーシュが帰ってくるということを。 知っていた筈なのに。 埋葬が終わり、墓前に膝をついていたシャーリーが立ち上がる。 私たちは動くことも出来ず、彼女の傍で佇む。 シャーリーがゆっくりと歩いてきた。 最初にカレンが口を開く。 「その、ごめんなさいシャーリー」 「やだなあ、なんで謝るの?」 沈んだ声で、シャーリーが答える。 シャーリーの言葉に、答えを返さず目を背けるカレン。 リヴァルが続くように一歩歩みでた。 「俺も、ごめん!俺、ホテルジャックのとき、テレビとか見てて、黒の騎士団とかちょっとカッコイイかもとか、思ってて――」 黒の騎士団が世間をにぎわしていた。 それがテレビの向こう側の出来事であったとき、彼等はまるでヒーローだった。 かっこいい、凄い、そんな言葉が飛び交い、煽る人も多かった。 リヴァルもまた、そのなかの一人だったらしい。 「そんなの、全然関係ないって。私だって、ナリタのことには――」 「よしなって」 シャーリーが無理に気遣うのをミレイ会長が止める。 「それより私はあんたの方が気がかり。ちゃんと泣いた?今変に耐えると、後でもっと辛くなるよ」 「もう、いいの。もう十分、泣いたから」 何かを思ったように、シャーリーは一瞬私を見た。 大切な友人なのに、何も言葉をかけられない。 何かを言おうとして口をあけるが、シャーリーは私から目を逸らした。 それっきり、伏せた彼女の目が私を見ることはない。 「卑怯だ!」 突然、スザクの怒りを帯びた声が響いた。 「黒の騎士団は、ゼロのやり方は卑怯だ!自分で仕掛けるのでもなく、ただ人の尻馬にのって事態を掻き回しては審判者を気取って勝ち誇る!あれじゃ何も変えられない。間違ったやりかたで得た結果なんて、意味はないのに」 ルルーシュは、ただ俯いて顔を上げない。 シャーリーは何かを思いつめたような顔をしている。 時折私に視線を向けるが、目があいそうになると、途端に逸らされる。 まるで、私のことを避けているみたいに。 罪悪感に苛まれ、シャーリーに掛ける言葉の見つからない私には、彼女を励ます資格なんてないのかもしれないと思わされる。 事実、そうなのかもしれない。 「さ、じゃあ私たちはそろそろ御暇しよ。シャーリー、待ってるからね。いつもの生徒会室で。だから――」 シャーリーは、優しいミレイ会長の言葉に安心したように静かに頷く。 「ほーら、皆行こう」 ミレイ会長の声に促され、生徒会メンバーは足を進めた。 シャーリーと、ルルーシュ以外は。 リヴァルが身動きしないルルーシュに声を掛けるが、ミレイ会長にがっちりと固定され連れて行かれる。 ゆっくりと、ルルーシュの隣を通り過ぎながら、シャーリーを振り返った。 私はまだシャーリーに何も言えてない。 大切な、友人なのに。 ルルーシュは顔を上げない。 シャーリーの目は、私を見ようとしない。 「シャーリー」 気付いたら、大切な友人の名前を呼んでいた。 ミレイ会長もカレンもスザクも皆、背を向けて先に歩いて行っている。 ルルーシュは顔を上げない。 シャーリーは、私の声に反応して私に目を向けた。 しかし、次の瞬間には、逸らされる。 「シャーリー、私も待ってるから」 気の利いたことなんて何も言えず、だけどただ本心で、とにかく言えることだけを伝えた。 シャーリーは目を伏せて私を見ようとしなかった。 再び彼女に背を向ける。 「ごめんね、」 か細く消え入りそうな声が聞こえた気がした。 咄嗟に振り向いても、視界に入るのは私を見ようとしない俯いたままのシャーリー。 もう一度背を向けて歩く。 今度はもう、何も聞こえなかった。 重たい足取りでクラブハウスに入る。 何も考えずただ歩いて、気付いたらクラブハウスに向かっていた。 ルルーシュの部屋。 今、室内にルルーシュがいるのか分からず、入るべきか迷う。 ルルーシュがいたら、どうだというのか。 いなかったら、どうだというのか。 何も考えないまま此処まで来てしまった。 扉を開けられない。 足を動かせないまま、ドアを凝視する。 そのまま、どれくらい時間が経ったのか分からない。 一時間かもしれないし、ほんの数分かもしれない。 ただじっと、ルルーシュの部屋のドアを見つめた。 「……何しているんだ、お前は」 突然ドアが開いた。 ドアの向こうに立っているC.C.が、立ち尽くしている私を驚いて見た。 いつものシャツではなく、拘束服でもない。 帽子を深くかぶり、男装をしたC.C.。 「る、ルルーシュは?」 「随分前に出掛けた」 「な、なんだ……」 力が抜けるのを感じる。 それを見て不思議そうに「ルルーシュに会いに来たんじゃないのか?」と尋ねられた。 会いに来た……のだと思う。 しかし、自分で自分が何を考えてここに来たのかハッキリ分からないのだ。 「なんだお前、ルルーシュに縋りに来たのか?」 「え……」 「お前がどうしてそんな苦しむことがある?友人の父親が死んだから?」 「……」 「何を深く考えているかは知らんが、が何をした?何もしていない」 「でも、私は、知ってた」 「だから?」 「だから……もしかしたら」 「ルルーシュを止められたかもしれない?」 止められたわけがない。 愛だとか恋だとか、そんなこと以前の問題だ。 彼の計画を阻もうとしていたなら、無理やりギアスをかけられて終わっていたに違いない。 「シャーリーの父親を助けられた?」 助けられるわけがない。 ルルーシュに計画について話をきくこともできない私。 ナイトメアも操縦できず、ナリタまで行くことすら叶わない。 「に何ができた?」 何が、できた? 私にできることがあった? 「ないだろう。それなのに罪悪感を感じて一人で悲観して、はどうなりたいんだ?大好きなルルーシュと傷を舐めあいたいのか?」 「……ちがう」 「ルルーシュに縋りたいのか?」 「ちがう!」 「じゃあルルーシュを慰めたい?」 「そんなんじゃ、なくて……」 違う? ほんとに違う? 違わない。 縋りたい慰めあいたい傍にいたい傍にいてほしい。 それが、答えだ。 << ○ >> |