かけがえなきもの ルルーシュの元へ行くC.C.を見送った後、ナナリーちゃんの所へ行った。 ナナリーちゃんはシャーリーのことを心配していて、様子を聞かれた。 何気ない風を装って答えていたつもりが、気分が沈んでいるのを気付かれてしまったらしい。 「さん」 ナナリーちゃんが私の手をとる。 優しい声が、柔らかな手が温かかった。 「気を落とされないでください。シャーリーさんも、きっとさんまで沈んでいたら悲しむと思います」 「……ありがとう、ナナリーちゃん。ごめんね」 「いいえ、私はいつもさんにお世話になっているんですから」 ナナリーちゃんに気を遣わせてしまったことが申し訳なくて顔を伏せる。 ルルーシュは今日、どんな顔をして帰ってくるのだろうか。 彼は、自分自身で答えを出したのだろうか。 シャーリーは、今どんな気持ちでいるんだろうか。 深くなる夜の闇を窓のガラス越しに眺める。 ルルーシュは、今もどこかでゼロとして動いているんだろうか。 明け方、クラブハウスで目を覚ました。 ナナリーちゃんが寝た後も寮へ帰る気にならず、生徒会室で一人になった。 いつのまにか眠ってしまったらしい。 まだ空は暗く夜と変わらないが、時計を見てやっと明け方だと分かる。 足を忍ばせて生徒会室を出た。 ルルーシュの部屋の前に立つ。 部屋の中から、人の気配がしない。 そっとドアを開くが、誰もいない暗い部屋だった。 ルルーシュもC.C.も、帰ってきていないのだ。 落胆と心配の入り混じった感情を抱きつつ、クラブハウスから出る。 寮へ向かって歩いていると、こんな時間だと言うのに人影が見えた。 一瞬ルルーシュかと思い近付くが、近付くにつれ女子生徒の制服を着ていることに気付いた。 それは、シャーリーだ。 慌てて歩みを速める。 何かを考え込んでいるように俯いて歩く彼女には、簡単に追いついた。 「シャーリー」 時間帯を気にして、声を抑えつつ呼びかける。 私の声にゆっくりと振り向き、私を見た瞬間目を見開く。 「……?」 お互いに立ち止まり、黙る。 シャーリーに、どんな顔をしていいのか分からなかった。 「シャーリー、こんな時間にどうしたの?」 「こそ」 「私は、うっかりクラブハウスで寝ちゃってて」 「そう……る、ルルは?」 「帰ってきてないみたい」 「……」 シャーリーは悲痛な顔で俯いた。 何を考えているのかは分からない。 彼女は、学校へ行くにしては大きな鞄を抱えている。 「シャーリーは、どうしたの?」 「……うん」 「シャーリー、どうして私の顔、見てくれないの?」 「、私、私ね」 シャーリーが何かを言おうと口を開くが、言いかけて止める。 彼女の言葉を待つが、一向に言葉にならず、遂に口を閉じてしまった。 「シャーリー、どうして私にごめんって言ったの?」 「…っ!」 ビクリと大きく肩を震わせ、彼女は自分の両腕を抱いた。 私から顔を背けたまま、何も言わない。 私は一歩彼女に近付く。 シャーリーは顔を上げないが、逃げようともしなかった。 何かに雁字搦めになってしまったかのように、動かない。 「シャーリー、どうしたの?」 「、私、ごめん、ごめんね……」 「どうして謝るの?」 シャーリーは両腕を抱いたまま、私の質問に反応した。 俯いて私の顔を見ないが、何かを伝えようと口を開く。 「、私、ルルーシュとキスした」 思わず一瞬、大きなショックを受けた。 何かが頭に落ちてきたような、衝撃。 言葉につまり、驚いたままシャーリーを凝視する。 後ろめたそうに、シャーリーの目が私を見た。 「ごめん、。そうじゃないの、ルルは私のこと好きだとか、そんなんじゃないの」 「シャーリー?」 「私、間違えちゃったの。私、泣いてルルーシュに縋って、それで――」 「シャーリー」 シャーリーの言葉を遮って、一気に距離を縮める。 思い切り抱きしめた。 「誰も責めないよ」 「でも、――」 「私は、シャーリーに避けられる方が、辛いよ」 「ありがと、」 少しだけ、シャーリーの力が抜けた気がした。 ゆっくりと体を離す。 泣きそうなシャーリーの顔があった。 「大丈夫だよ、シャーリー」 「、私ね……」 シャーリーが、何かを言いかけて止める。 私は言葉の続きを待つが、それ以上言うつもりはないみたいだった。 「シャーリー、今から何処に行くの?」 「うん、ちょっと……」 「一緒に行きたいって言ったら、迷惑?」 「……ありがとう。でも、一人で考えたいの」 「うん、分かった」 鞄を抱えなおし、シャーリーは時計を確認した。 今度は私の目を見ながら、シャーリーは「行ってくるね」と告げた。 去っていく彼女の背中に、寂しさを感じる。 「シャーリー」 思わず呼び止めると、彼女は素直に振り向いてくれた。 「私、待ってるから」 一言だけ告げると、シャーリーは何故か少し悲しそうな顔をした。 それから、少し俯いて、顔を上げた。 「、私が戻ってきたら、話聞いてくれる?」 「もちろん」 間髪入れず答えると、シャーリーは少し安心した風に笑った。 空はいつの間にか明るくなり始めている。 シャーリーの姿が遠くなる。 小さな彼女の背中が学園の敷地から出て行き、見えなくなった。 次に会ったとき、シャーリーはルルーシュのことを「ルル」と呼ばなくなっていた。 << ○ >> |