柔らかな野風 テラスに出て、日差しを浴びる。 ナナリーちゃんとスザクが二人で楽しそうに談笑する横で、ルルーシュが本をめくる。 私はルルーシュとナナリーちゃんの間に座り、鶴を折った。 「冬にはこの池に氷が。スケートをしたら、お兄様に叱られましたけど」 楽しそうにナナリーちゃんが話す。 ふと昨年の冬、ナナリーちゃんの手を引いて氷の上を滑ったことを思い出す。 そんな私の思考を読んだらしいルルーシュが、からかい気味に私を見た。 「は思いっきり転んでたな」 「あれは、ルルーシュが急に声かけるから驚いただけだよ」 「どっちにしろ転んだじゃないか。そんなに厚くもない氷の上であんな危ないマネ……」 「だって……」 拗ねる私と、素っ気無い態度のルルーシュを見て、スザクとナナリーちゃんがまた笑う。 「枢木神社にもあったんだ。小さな池だけど――」 スザクとナナリーちゃんが再び話し始めたのをルルーシュが考えありげに見た。 ルルーシュの視線に気付いたスザクは首を傾げる。 何かを話そうとルルーシュが口を開いた瞬間、見知らぬ女の人の声でそれを防がれた。 「スザクくーん!」 見慣れぬ軍の制服を来たその女性は、息を切らしながら駆け寄ってくる。 「誰?」 「軍の人」 ルルーシュが不思議そうにスザクに尋ねると、少し声量を落としてスザクが答える。 その女性は立ち上がり向き直ったスザクと、それを見つめる私たちに目をやり「お友達?」と尋ねた。 「はい」 表情を緩ませて答えたスザクに、その女性は母性のような優しい笑みを浮かべる。 「ごめんなさい、ちょっとスザク君を貸してね」 「あ、でも……」 「大丈夫だって言ったろ。あの男はもう来ないから」 「そう、それじゃ……」 困ったように、心配そうな視線をナナリーちゃんに向けるスザクに、ルルーシュが声を掛ける。 一瞬躊躇った後、スザクは歩いて女性の方へ向かった。 「いってらっしゃい、スザクさん」 「うん」 ナナリーちゃんの声に優しく返事をし、背中を向けたスザクに、今度はルルーシュが声を掛ける。 「スザク、戻ったら話したいことがある。大事な、大切な話だ」 「なんだい、怖いな……それじゃ、あとで」 ルルーシュの真剣な瞳に少し反応しつつ、焦ったようにスザクは軍の女性と走って行った。 その背中を見つめ続けるルルーシュ。 「スザクさん、必要とされてるんですね。良かった」 安心したように呟くナナリーちゃんに、私とルルーシュは顔を向ける。 絶やさぬ笑みを浮かべ、ナナリーちゃんは嬉しそうだった。 「ナナリー、お前、スザクのことどう思ってる?」 「好きですわ」 やたらと真剣に尋ねるルルーシュに、ナナリーちゃんは事も無げに答える。 その後、「もちろん一番はお兄様ですけど」と付け加えた。 ナナリーちゃんの言葉を聞いたルルーシュは、しかしなんとも不似合いに真剣な表情を崩さない。 「さ、中に入ろうか、ナナリー」 そう促し、テラスに出したものを片付ける。 ナナリーちゃんの後ろについて室内に入ろうとしたルルーシュは、もう一度スザクが去って行った方向を見た。 私とナナリーちゃんは、それからも二人で話をした。 早々に部屋に引っ込んでしまったルルーシュは、日が落ちて空が赤くなり始めた頃に再び顔を出した。 「すまない、これから出てくる」 「お気をつけてくださいね」 「ああ、行ってくる」 ルルーシュが何処かへ出かけてしまうことに慣れきってしまった私たちは、彼に言葉をかけて送り出した。 ルルーシュを見送ろうと、私は立ち上がって部屋を出る。 鞄を肩にかけ、廊下を歩いていたルルーシュは私に気付き足を止めた。 「今日の帰りは?」 「遅くなるかもしれないから、先に食事はしておいてもらえるか」 「分かった」 またナナリーちゃんが寂しがるだろうなと思いながら頷く。 「悪いな、いつも」 「私が好きでやってることだから」 私はこんな気を遣った言葉を貰いたいわけではない。 そう言うと、ルルーシュは微かに笑った。 「じゃあ行って来る」 片手を挙げてルルーシュは廊下の角を曲がった。 << ○ >> |