その日、私は浮き足立っていた。

朝、いつもより早くに目覚め、軽くステップを踏みながら学び舎へ登校した。

とは言っても、その日浮かれているのは私に限らず、学園中の生徒に当てはまっていた。

カラフルな装飾をまとったいつもと違う校舎。

今日は学園中が浮かれる日、学園祭だ。












夜宮














学園祭といっても勿論、私が浮かれているのはそれだけが原因ではない。

今日は久々に、一日中ルルーシュが学校に居られるのだ。

最近は何かと忙しかった彼が、生徒会の任を全うする為とはいえずっと手の届く所に居るのだ。

私にとっては浮かれるなという方が無理な話だ。

朝、仕事をしているルルーシュを見つける。


「おはよう!ルルーシュ」

「ああ、おはよう、


朝の挨拶すら久々に感じて、こんな些細なことを幸せに感じる。

忙しいのは重々承知だが、もしできることならルルーシュと少しでも学内を回れたらなとか、そういう考えも頭にある。

勿論、単なる希望にすぎず、その可能性がほとんどないことは分かっているけれど。


「ルルーシュ、こっちどうなってんのー!?」

「はーい!」


朝の挨拶もそこそこに、ミレイ会長の呼び声でルルーシュが慌てて走る。


、こっちー!」

「はいはい!」


シャーリーの呼び声で、私にも生徒会の役目があることを思い出し走った。

学園の一般開放直前準備に、皆がてんてこ舞いだ。

もう間もなく開催宣言が始まる。

空で弾けるような開幕の音が鳴る。


「皆さん、お待たせいたしました!」


学園中にミレイ会長の声が流れた。

拡声器を通したミレイ会長の放送は、喧騒に関わらず全ての人の耳に届く。


「スタートの合図はこの一声から!」

「にゃーん」


ナナリーちゃんの可愛い猫の鳴き声が響き、男子生徒が歓声を挙げた。

私は、校舎の横に立って電話を耳に当てたまま様子を見て、思わず苦笑する。

ルルーシュが屋上から園内を見下ろしているのが見える。


この様子では、ルルーシュと校内を見て回るなんて夢のまた夢かな。


溜め息をついて、気分を変えようと頭を振った。

生徒会の仕事をしなくては。

こんなに大掛かりな学園祭、失敗したら大変だ。

気を引き締めようと頬を軽く叩く。

無意識に視線が屋上のルルーシュに向いているのに気付いた。

気分の切り替えができない……ダメだなあ自分。

もう一度溜め息をついた。

人の賑わう学園の正面を歩いた。

私の両端には力作ぞろいの屋台が並び、客寄せの声が方々から飛んでくる。

ナナリーちゃんと、その車椅子を押す咲世子さんの姿を見つけた。


「ナナリーちゃん、咲世子さん!」

さん、おはようございます」

「おはよう」


ナナリーちゃんは早速、屋台で買ったらしいカラフルなお菓子を持っていた。

十分学園祭を満喫しているらしい様子に、早くも達成感が灯る。


さん、大変でしょうけど頑張ってくださいね」

「うん! ナナリーちゃんと咲世子さんも、楽しんでね」

「はい」


電話に通信が入る。

慌てて返事をして、倉庫へ向かう。


、在庫が少なくなってるみたいなんだけど場所分かる?』

「ちょっとまって、確か入りきらなくて別の倉庫に移動した筈!」


電話に答えて倉庫に向かうよう指示する。

私も校舎に入り、探すのを手伝おうと思っていると廊下を歩くカレンの姿を見つけた。

電話から『見つかったー! ありがとう!』と聞こえ、生返事をしてしまったが相手は気にしていないように通話が終わった。

角を曲がり姿が見えなくなりそうなカレンを慌てて追いかける。


「カレン!」

「!? ああ、


一瞬私の声に驚いて振り向いた彼女は、私の姿を見て安心したように肩をおろした。

カレンに歩み寄る。


「学校、来てたんだ」

「ええ、今日は体調も悪くなかったから……ごめんなさい、生徒会の仕事もお手伝いしていないのに」

「ううん、気にしないで」


並んで廊下を歩く。


「カレンは今から何処に?」

「ルルーシュに、クラスの人員が足りないみたいだからって言われて」

「そっか」

は?」

「私は、今は見回りかな。皆はピザの準備に手間取ってるみたい」

「世界一のピザでしょう? 凄いわよね」

「ミレイ会長も、やることが派手だよね」


大人しそうに微笑むカレン。

! 今、何処?』再び電話に通信が入る。

返事をしてカレンを見ると、「私はいいから、行って」と手で示す。

軽く手で彼女を拝んで、廊下を左に曲がった。

私とは反対方向、クラスの方へ歩いていくカレンの背中を何となく見る。

……ウチのクラス、ホラーハウスだったよね?

カレンがホラーハウスの手伝いをする姿が想像できなくて、思わず首を捻ってしまった。

是非その姿を見てみたいが、残念ながらそんな時間はなさそうだ。






間もなくピザ作りが始まる。

ステージに立つリヴァルの声で、一斉に人がそちらに向かう。

校舎の中の人も、ステージを見ようと窓にはりつく。

一旦落ち着けそうだと息をついて、放送室に向かった。

放送室の前に、髪の長い女性が立っている。

生徒会に用事のある人だろうかと近付くと、その女性がナナリーちゃんの車椅子を押していることに気付いた。

ルルーシュが慌てたように中から飛び出してくる。

驚いたように佇んでいると、ルルーシュが私に気付く。


「ああ、悪い、ここを頼む」

「え、さんですか?」


ルルーシュの言葉にナナリーちゃんも私に顔を向ける。

ナナリーちゃんの後ろに立つ髪の長い女性を正面から見ると、深く帽子を被りサングラスを掛けていた。

変装しているようだ。

不思議そうに首を傾げる私に、女性は軽く微笑んだ。

思わず首だけ動かして頭を下げてしまう。


「何かあったら連絡を!」


放送室の中に声を掛け、ルルーシュは急いでナナリーちゃんとその女性を連れて行った。

室内を覗くと、私と同じく呆気に取られたミレイ会長が立っている。


「お疲れ様です」

「お疲れ。どしたの、ルルーシュ?」

「さあ」


一先ず二人で椅子に座り、学内の様子などを伝える。

滞りなく進行していることに二人で安堵し、窓の外を見る。

ステージの上では、スザクが紹介され人々から歓声が上がっている。

ステージの前に集まった人々は、ブリタニア人だったり日本人だったりと色々だ。


「会長、傍で見てきたらどうですか?」

「え、でも」

「ここは私が見てますから。会長の発案した世界一のピザ作り、見てきてください」

「ありがと」


ミレイ会長が放送室を出る。

一人になった室内で、私は思いっきり伸びをして椅子に深く座りなおした。

ずっと歩き回って足が棒のようだ。

一度座ると、自分がそれなりに疲れていたことを実感してしまう。

遠くで、ピザの生地が伸びていくのが分かった。

ふと、C.C.はどうしているんだろうと思い出す。

きっと、世界一のピザなんて聞いただけで楽しみにしているに違いない。

部屋からは出られないだろうから、後で持って行ってあげた方がいいかと思った直後、そんな時間はなさそうだと思い直した。


































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