騒乱と花










生徒会室から黒の騎士団が出て行った。

しかし、クラブハウスのホールには多くの機材が運び込まれている。

私たちは、ここから出られない。

銃を構えた男達が出て行った後、リヴァルが息を吐いた。


「リヴァル、ありがとう。でも無茶しないで」

「ははは」


ミレイ会長が少しだけ怒ったようにリヴァルに声をかけるが、それが勲章だと言わんばかりのリヴァル。

困ったように、ミレイ会長も笑った。

ナナリーちゃんは、車椅子に手をかけていた私を見上げた。


さん、大丈夫だったんですか?」

「あ! そうよ! 、よく戻ってこれたわね。怪我は?」


ミレイ会長が素早く私に駆け寄った。

私の左手を握ったままだったシャーリーも気付いたように顔を上げる。


「うん。黒の騎士団の人たちは一箇所に固まってたから、一人で隠れて何とかここまで帰ってこれたの」

「あんたも無茶するわねえ。でも、よかった」


少し苦しい言い訳かなとも思ったが、誰も気にしていないようだった。

理由なんてどうでもよくて、ただ私の無事を喜んでくれていると分かる。

一気に疲労感が押し寄せたように、ミレイ会長が椅子に腰掛けた。

皆に心配をかけて、迷惑をかけて、今日何度目かの罪悪感。


「ありがとう、ごめんね……皆も大丈夫だったみたいで、よかった」


周りを見回し大丈夫そうなのを確認する。

そこでふと、一人、姿が見えないことに今更ながら気付く。

そういえば、戻ってきたときからいなかった。

ミレイ会長が、困ったように腕を組む。


「ニーナ、まだガニメデの倉庫にいるのかしら?」

「それよりカレンでしょ。あー、どうなるんだろう、俺たち」


心配事ばかりで、気が休まることがない。

唸るリヴァルに、シャーリーがきっぱりと言った。


「大丈夫よ」

「え?」


シャーリーが自信ありげに言った意外な言葉に驚く。


「黒の騎士団は、いいえ、ゼロは絶対に私たちに危害を加えないから」

「なんで言い切れるんだよ」


何かを思案しているようなシャーリーにリヴァルが不審そうに尋ねる。

リヴァルにとっては根拠も何もないその言葉。

私にとってその言葉は、彼女がゼロの正体にまで辿り着いていることを示すものだった。


「卑怯者!」


そのとき、外からスピーカーを通したような大きな怒声が響いた。

リヴァルが驚いて身を震わせ、声の主に聞き覚えのあるナナリーちゃんが心配そうに眉を寄せる。

生徒会室の窓の外。

そこにガウェインとランスロットの姿があった。

窓のすぐ脇にいるガウェインは右腕をこちらに向け、攻撃態勢をとっている。

それを見下ろすようなランスロットが、動きを止める。

ゼロが、スザクに対して人質をとったのだ。

生徒会メンバーという、人質を。


「おい! あの黒いナイトメア、ニュースで出ていたやつだろ」

「そんな、ゼロがここを狙うなんて」


本当に驚き、焦ったようにシャーリーがリヴァルに向く。


「嘘よ、嘘! だってそんなことしたら――」


そんなことしたら……その先を彼女は言いよどむ。

シャーリーはナナリーちゃんを見た。

彼女の言わんとしていることは私にも分かるし、正論だと思う。

窓の外の戦いに釘付けになった私たちは、ランスロットが素早い動きでガウェインの懐に飛び込もうとするのを見た。

ハドロン砲を避け、滑るように地に足を着ける。

そこで、ランスロットの動きが止まった。


「偽善なる遊びに付き合う暇はない。さらばだ、スザク」


どうやらスザクは、ゼロのはった罠に、はまってしまったようだ。

冷たく言い放ち、ガウェインはランスロットを残して去る。

動けなくなったランスロットをあっという間に黒の騎士団が囲む。

生徒会室の窓からその姿が見えた。

窓の外の様子から目が離せない。

窓一枚隔てたすぐ傍で、ランスロットの周りが機材や人で囲まれていく。


「うわー、このままじゃスザクまで!」


リヴァルが焦って頭を抱える。

ふと、急に部屋の外が騒がしくなったことに気付いた。

黒の騎士団たちの慌てたような声と足音が聞こえる。

何が起こったのかわからないが、先ほどまでの整然とした監視体制が崩れたらしいことだけは分かる。


「何かあったのかしら?」

「今のうちです、行ってください」

「え?」


思わぬナナリーちゃんの言葉に、全員の驚いた声が重なる。


「スザクさんを助けてあげてください。ここで今、一番頼りになるのは」

「……うん」


ナナリーちゃんの言葉に、ミレイ会長が頷き立ち上がる。

それについて行こうとリヴァルも立つ。


「でも……」


心配そうに、躊躇いがちにシャーリーがナナリーちゃんを見た。

私はナナリーちゃんの傍に寄り添って立つ。


「私がナナリーちゃんといるから」

「お願いね、


私の言葉に安心したようにミレイ会長が笑う。

リヴァルは生徒会室のドアを開き、廊下に人影がないか探っている。


「気をつけて」

「今だ、行こう」


私の言葉にシャーリーとミレイ会長が頷き、安全を確認したリヴァルが手で合図をする。

三人が廊下に出て、ドアが閉まる。


さんも、行って下さって大丈夫ですから。私は――」

「一人にはさせられない」


私を見上げるナナリーちゃんの言葉を遮る。

しかしナナリーちゃんは大人しく頷いてくれた。


さん」

「何?」

「お兄様は、大丈夫でしょうか……」

「……ルルーシュなら、きっと」


ナナリーちゃんは私の言葉に、無理に微笑む。

その笑顔が痛々しい。


「ルルーシュのことだからさ、私たちなんかよりよっぽど要領よく切り抜けられるよ」

「そうですね」


ナナリーちゃんの頭をそっと撫でた。






生徒会室のドアが開く音がした。

誰か戻ってきたのかと振り向くと、見知らぬ姿がそこにあった。

その見知らぬ人影は、そこにいるにはあまりにも不似合いな格好。

貴族のような立派な服を着て、踝まである長い髪。

そして何より、ナナリーちゃんよりも小さいであろうその身長。

その姿は、まだ十代足らずの男の子だった。


「もしかして、C.C.さん?」


言葉を発しないその人物に、ナナリーちゃんが少し嬉しそうに尋ねた。


「違うよ」

「え……でも」

「ナナリー、君を迎えに来たんだ」


彼の声は、外見とのギャップを感じさせない幼いものだった。

それはまだ声変わりに至らない、あどけない年齢である筈の男子の声。

彼は私などいないかのようにナナリーちゃんを見て、ナナリーちゃんに話しかけた。

ナナリーちゃんがC.C.と間違えたのも無理はない。

どことない雰囲気が、C.C.にそっくりなのだ。


「誰?」

「僕はV.V.」


私の顔を見て、彼は素っ気無く答えた。

V.V.という名が、余計にC.C.との関係を強く示した。

私はナナリーちゃんの手をとり、庇うように二人の間に立った。


「君には用事はなかったんだけど……」


V.V.は首を傾げ、困ったように私と目をあわす。

譲ろうとしない私に、溜め息をついた。














































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