誰もが幸せを望むという事実。

誰もが、大切な人を思っているという事実。



ルルーシュは、大切な妹を守る為に、他のものを犠牲にする覚悟をした。

スザクは、大切な人を失った。

今ルルーシュは、大切な人と過ごす未来を掴む為に、必死になっている。










掌に花びらを













流れる涙が、止まり始めた。

洞窟に響く声も、叫びから嗚咽になった。

私の頭もだんだんと覚醒し始める。

スザクが動く気配を感じた。

視線を上げると、再び銃口をルルーシュに向けている。


「ルルーシュは、ユフィと手を組むべきだった。も……誰も、これ以上傷つかなくてすんだ筈だ! 君とユフィが力を合わせれば、世界を――」


段々と、スザクの感情が昂っていくのがハッキリと分かる。

失った大切な人を想っているのだ、きっと。


「全ては過去、終わったことだ」

「か、過去!?」

「お前も父親を殺しているだろう。懺悔など、後でいくらでもできる!」


冷徹なルルーシュの言葉。

学園祭で一度会っただけではあるが、私の記憶にあるユーフェミア皇女殿下の笑顔を思い出した。

そして、惨劇の後のルルーシュの仮面を――。

彼は今、自分の言葉で自分を傷つけているのだろうか。

それとも、もう、それすらも麻痺してしまったのか。


「君には無理だ!」


ルルーシュの言葉に激昂したスザクが怒鳴る。

怒りに震える手は、しかし決して銃口をルルーシュから離さない。

今にも引き金を引いてしまいそうだ。


「君は、最後の最後に世界を裏切り、世界に裏切られた! 君の願いは叶えてはいけない!」

「スザク、それ以上言わないで……お願い、言わないで!」


耳を覆いたくなるような言葉。

私の心にまで突き刺さる、言葉。

ガラガラに枯れた声で、スザクの名前を呼んだ。


「ルルーシュの願いを叶えちゃいけないなんて、言わないで。お願い……」

、間違った方法で得たものに、価値なんてないんだ」

「そんなこと、ない! 正しくはないかもしれない。でも、それ以外に方法がなかったんじゃない!」

「そんな筈はないよ! 正しい方法は、あったじゃないか! 目の前に! ルルーシュが、壊したんじゃないか!!」

「何も知らないくせに……! スザク、ルルーシュの痛みも努力も知らないくせに、否定しないで!」

「痛みや努力を伴ったからといって、ユフィのことを許せって言うのか!!」

「……っ」


紡ぐべき言葉が見つからなかった。

悲痛なスザクの叫びに返せる言葉なんて、今はなかった。


「理想だけで世界が動くものか!」


銃を構えるスザクの目の前で、ルルーシュが怒鳴る。

大きくマントを上げる。

そこにあるのは――


「撃てるものなら撃ってみろ!」

「!?」

「る、ルルーシュ!?」


ルルーシュの心臓がある位置に光っているものは、サクラダイトだった。


「俺の心臓が止まったら爆発する。お前達もお終いだ」

「ルルーシュ、そんな……、なんで!?」


枯れた声で精一杯ルルーシュを呼ぶと、ルルーシュは私の目を見た。

迷いのない、顔。


「だ、駄目だよ……ルルーシュ死んじゃったら、ナナリーちゃん、どうするの?」

「逮捕されて処刑されるか、ここで全員を巻き添えにして死ぬか、それだけの違いだ。結果は変わらない」


ルルーシュの言葉に、スザクが怒りを顕わにする。


だっているんだぞ!!彼女も巻き込むのか!?」

「……、今すぐ、ここから去れ。海へ逃げれば、爆発が起こっても助かる可能性が高い」


優しい声で、ルルーシュが言った。

私の目を見る。


 い や だ


子供が駄々をこねるように、私は思い切り首を横に振った。


、お前は、生きてナナリーを――」

「嫌! 私は、ルルーシュと死ねるなら、それでいいよ!」


すがりつく様に叫んだ。

本当に、本当に死別することになるのではないかという不安が否応なしに私を襲った。

ルルーシュが、どんな言葉で私を追い出すのか恐怖した。



しかし、予想に反して彼は、笑った。

少しだけ、だけど本当に嬉しそうに、安心したように、笑った。




「そう言うと、思った」





見たことのない笑顔。

ずっと、ずっと見せて欲しかった笑顔。

この笑顔を見れた。

それだけで、もういい。


「私は、いいよ。ルルーシュ」

! ……っ貴様ぁ!」


信じられないという顔でスザクが私を見、ルルーシュを睨み付けた。

彼の価値観の中に、愛しい人と共に最後を迎えるという幸せは存在しないのだろう。


「それより取引だ。お前にギアスを教えたのは誰だ!? そいつとナナリーは――」

「ここから先のことは、お前には関係ない!」

「……!」

「お前の存在が間違っていたんだ。お前は世界から弾き出されたんだ! ナナリーは俺が…!」


スザクの放つ辛辣な言葉に、ルルーシュの顔が歪む。

あのスザクが、憎しみを込めてルルーシュの名を叫ぶ。

あのルルーシュが、憎しみを込めてスザクの名を叫ぶ。

スザクの握る銃が、ルルーシュの構えた銃が、今にも相手を撃とうとしている。

それは、ほんの一瞬。

だけど、不思議と私にはスローモーションのように感じられた。

ルルーシュが、スザクを撃つと思った。

スザクが、ルルーシュを撃つと思った。

半ば反射のようなものだった。

親友のスザクを殺してしまうルルーシュを助けたいのか、親友のスザクに殺されてしまうルルーシュを助けたいのか、分からない。

一心に、二人の間に飛び込んだ








響いた銃声は  


終わりの鐘か  始まりの鐘か





































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